Life 1



「あ」

 おはようのキスをしたら、背伸びしたままのみちるが言った。

「はるか、少し背が伸びた?」

「え?」

 まだ少し眠たくて、立ちあがってみちるを抱きとめたままぼんやりとしているとこ
ろにそう言われたものだから、聞き返しそうになる。彼女がカーテンを開け放ったせ
いで、部屋の中、フローリングもシーツも、家具も全部、朝の日差しできらきらと照
らされてた。


「んー、どうだろ。でも、もうそんなにたくさんは伸びないと思うけどな」

 そう言われても、今一ぴんと来ない。少し前までなら、自分でもわかるくらいすく
すく育っていた。でも今は、ぴったり止まってしまったわけじゃないけど、爆発的な
成長期は過ぎたしな。言いながら考え込むように上を向いて、頭に手を当てていると、
みちるは背伸びを止めて、こちらを見上げた。


「みちるは可愛いサイズのままだよね」

「・・・・・・可愛いサイズではないけれど、多分これ以上は伸びないわね」

「・・・じゃあ、あんまり伸びるのも嫌だな」

 そう言われてみれば、と改めてみちるを眺めると、見下ろす距離が少し遠い気がし
ないでもない。


「大丈夫よ。お花柄でもフリルでも、背が高い人向きな服で可愛いものはたくさんあるわ」

「違うっ」

「そう・・・?はるかが欲しいのなら探してくるのに」

「いらないから・・・」

 一回脳内で想像してから言ってくれ。ちなみに自分で一瞬想像してみたら口から何
かが出そうになった。はるかにだって好みはある。


「じゃあ、どうして?」

 そんなことを露ほども思いつかないらしいみちるが、可愛らしく小首をかしげて見
せるから、軽く吹きだしてしまった。


「チューするのに、これ以上離れちゃいたくないの」

 みちるの手を取って、少しだけ屈みこんで、そんなに時間がかかることでもないの
に、ちょっと距離が開いたかも、と思うとじれったくもなると言うもの。いっそのこ
とずっと抱っこしとこうかな。


(でも、この角度も好きかな)

 上向き加減でみつめてくる瞳とか。伸びあがる際に、はるかの腕に手を掛けた時の
感触とか。じっとはるかを待っているような表情が際立つような角度ではあると思う。
ちなみに、みつかったらものすっごい怒られるけれど、はるかは二回に一回くらいの
割合で、それをちらちら盗み見てはその愛らしさに悶えていたりする。


 今も。

 不意打ちのようなキスに驚いたみちるが、僅かに顎を引いてきゅっと目を閉じてい
るのをばっちり見てしまった。思わずにやける。その上。


「もうっ、はるか!」

 しっかりそれを見つけられてしまった。眉を吊り上げたみちるが手のひらではるか
の肩を叩いた。ぽんぽんと叩いてくるその腕を取ってもう一度、屈みこんでキスをした。


「大人になるまでには、もう少し伸びるかもしれないけど」

 はるかの仕草に、みちるがいつもの大人びた表情を崩して、怒ったような顔をして
見せるから、おどけた調子で話を戻す。

 それが功を奏したのか、もしくはそれとはまったく関係なく気分が良くなったのか、
みちるは少し考えてから、ぱっと笑顔に戻った。


(ん?)

 何か、思いついた時の顔だ、これは。しかも大概、名案とかじゃなくて悪戯。そん
な時の彼女は、子どもに戻ったみたいな顔で笑う。


「どうしたの?」

 引き寄せてくっついた距離のせいで、またベッドに戻りたくなりながら、はるかが
顔を覗き込むと、みちるはその笑顔のままで、なぞかけをした。


「大人になるってどういうこと?」



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