Morning



「起きて、はるか」

 声をかけながらカーテンを遠慮なく開け放つと、まぶしさにはるかが少し反応する。

「はるか」

「・・・・・・」

 けれど、一、二度、眉をしかめるだけ。そのままくるりと朝日に背を向けると、彼
女はまた眠りをむさぼろうとする。


「・・・・・・」

 みちるは少しだけ思案してから言った。

「起きなさい!はるか!!」

「・・・・・・っ!ぅぁいっ!」

 耳を突き抜ける声に、はるかは勢いよく飛び起きる。

「おはよう、はるか」

「おはよー・・・・・・」

「休日だからって、いつまでも寝ていては駄目よ」

「うんー・・・」

 返ってくる声はまだ寝ぼけているようだけれど、身体はしっかり反応するらしい。
体育会系って便利。


「朝食の準備はできているから、早く来てちょうだい」

 けれど、はるかはただの運動ばかではないのだ。ぼんやりとこちらへ向けていた顔
でにっこりと笑いかけてくる。ついでに両手をこちらへ伸ばしてきた。


「・・・おっきするから、だっこして」

 更にその上を行くおばか。が。

「・・・仕方ないわね」

 考えるよりも前にはるかを抱き起こしてしまった。だって、この、両手を前に突き
出してくる恰好が堪らないんだもの。両手を広げているんじゃなくて、こっちに向け
て伸ばしてくるのがいいの。可愛いの。


 身体を起こしたはるかはフローリングに脚をつけると同時に、ばね仕掛けのように
勢いよく立ちあがる。


「きゃっ・・・」

 それから、その勢いのままみちるを抱き上げた。

「もう、はるか・・・」

「だって、みちるも抱っこしてもらうの好きでしょ?」

「・・・そうだけど」

 はるかの肩に手を置いて見下ろす格好で抱き上げられると、完全に脚が床から離れ
てしまう。


「ふざけてないで、早く着替えて」

「ふざけてないよ。君があんまりきれいだから、離したくなくなるんだ」

 言いながら顎を少し上げて、伸びあがるような姿勢ではるかがみちるに口付ける。

(駄目だわ・・・)

 このままでは朝からむらむらと・・・、違う、ええっと、欲求不満?・・・そうじ
ゃないわ、とにかく、朝食が覚めてしまう。


「・・・冗談は・・・その位に、して・・・」

 それなのに、意志と言うのは相手によってかなり脆くなるらしい。はるかの瞳をみ
つめ返していると、磁石か何かのように引き寄せられて、その鼻筋に口づけてしまっ
た。


 その拍子に、はるかが喉の奥で微かに呻く。それが呼び水になって、唇を彼女の頬
に振らせてしまう。


 途中で彼女の唇を掠めてしまうと、その柔らかさに絡め取られてしまう。

「みちる、ご飯が冷めちゃうね」

「・・・・・・ええ」

「駄目なんでしょ」

「・・・もちろんよ」

 声の合間に、どちらからともなく唇を重ねると、その言葉の意味なんて考えられな
くなりそうだ。


 お互いに力が抜けて、その場に崩れ落ちてしまいそう。抱き上げられていた身体が、
彼女の身体の線に沿ってずれ落ちて行く。


「あ・・・っ」

 みちるが床に足を着地させると、はるかが驚いたような声をあげた。

 後ろにゆっくり倒れ込むみちるが、はるかを引っ張ったからだ。

 シーツの上にみちるが倒れ込む音。そこへはるかが一緒に倒れ込む音。二人分の体
重を受け止めて、シーツが深く沈みこむ。


「・・・早起きしなきゃ駄目って、みちるが言ったのに」

 再びベッドの上に戻されたはるかが、苦笑いのようにそう言ってまた、口づける。

「そうよ」

 柔らかな髪をかき乱しながら、透き通るような瞳を見返して、今度はみちるから口
づけた。


「早く起きたから、いいことあったでしょう?」



                           Day time

inserted by FC2 system