忘れない日々




 ベールを持ち上げて覗いたその人の穏やかな顔は、化粧のせいでも、初夏
の初々しい日差しのせいでもなく、彼女の持つ輝きそのもののように美しく
て。

 この美しい人を、世界で一番幸せにしたいと心から思った。

 ―――喜びも悲しみも分かち合い。

 ―――富める時も、貧しい時も。

 ―――健やかなる時も、病める時も。

 ―――共に在ることを誓いますか。

 神さまでも、マリア様でもなく、目の前の愛しい人にそう誓って、ほとば
しってしまいそうな感情のまま、その額に私はそっと口づける。


 私だけの、祥子さまに。


                           


「わ、懐かしい」

 弾んだ声が、まだあまり家具類の揃っていない、リビング兼寝室に響いた。

「もう、祐巳ったら。一つ一つに思い出があるのはよくわかったけれど、そ
れではいつまでたっても終わらないわ」


 ため息をつきながら、だけどさして咎める様子のない声で祥子さまはそう
言った。


「ごめんなさい、つい・・・」

 こちらも、一応は謝るけれど、内心はいたずらっ子のようにはにかんでい
た。

 祐巳は祥子さまのお小言には慣れっこで、祥子さまは祐巳のお惚けにも慣
れっこだから。なんて理由だけではない。

 二人が何となーく、甘い空気を漂わせつつじゃれあっている理由なんて
二つも三つもあるわけじゃない。

 お互いの些細な違いなんて、軽くかわせるくらいに幸せなのは、祥子さま
が祐巳の伴侶で、祐巳が祥子さまの伴侶だから。


 つまるところ、新婚さん。それも幸せ目いっぱいの、新婚さんなのだ。こ
れが幸せでないなら他に何がそうだというのだ。


「でも、お姉さま。これ、リリアンの制服ですよ。懐かしいでしょう?」



 新居に越してきてから、まだ数日で。とりあえずは必要なものだけを、ダ
ンボールやら衣類ケースから取り出しながらの生活だったけど、今日は引越
し後初の休日。こまごまと取り出していた食器をお気に入りの棚に片付けて、
デスク周りを自分使用に整頓する。祥子さまなんて、持って来た本が多すぎ
て、当初予定していたスペースに収まりきらなくなっていた。それを何とか
収めたら、最後は衣替えならぬ衣類整理が待っていた。

 もちろん、祥子さまと談笑しながらだから、退屈なんて感じることはなか
ったのだけれど。ひたすら衣類を季節ごとに分ける作業を一時中断して、祐
巳は深い色のワンピースを祥子さまの前にひらりと差し出した。


「あら、本当」

 呆れた顔をしていた祥子さまは、祐巳が手にしたものを目にした瞬間に、
表情をほころばせた。


「あ、これ、お姉さまのですね」

 何となく目の高さに持ち上げると、自分のものよりも幾分か丈が長かった。


 高等部時代の三年間を共にしたその制服は、おろしたての時よりもずっと
肌になじんでいる。


 祥子さまの三年間と、祐巳の三年間が重なったのは、その半分にも満たな
いけれど。

 祥子さまと出会った時も、姉妹となれた時も、それから、恋におちた瞬間
も。この制服と共にあったのだった。


 今よりも少し(祥子さまはほとんど変わってないなんて言うけれど)幼い
祐巳と、やはりどこか少女の面影を残した祥子さまが、ただ夢中で手を繋ぎ、
一つずつ扉を開けていった思い出に胸が熱くなる。


 この制服を着て過ごしたあの頃、楽しかったことやうれしかったことと同
じくらい、辛かったことや、涙を流したこともたくさんあったけれど。こう
して改めて手に取ってみると、それすらも何だか愛しく思えるくらいに優し
い気持ちになれた。


(ああ、今思えば、あの頃のお姉さまって、すごく可愛かったなぁ・・・)

 もちろん今だって、世界で一番素敵な女性だけれど。

「この制服を着ていた時のお姉さまも素敵だったなぁ」

「な・・・っ」

 懐かしい思い出に浸りつつ、でれでれと頬を緩め始めた祐巳に、祥子さま
は途端に眉を吊り上げた。


「何、馬鹿なことを言っているの。もう、それはいいから早く片付けなさい」

 どうやら、こういう状況は身の置き場に困るらしい祥子さまは、怒ったよ
うに祐巳が手にした制服を取り上げようとする。だけど、それが本当は照れ
隠しなんだってこともわかるから、なおさら胸がぽかぽかしちゃうんだ。


「でも、これも畳んでしまわないと」

「私がするから、貸しなさい」

「いいえ、私が・・・」

 もう少し、祥子さまとじゃれあっていたくて。祐巳にしては珍しく、祥子
さまのすることに抵抗をしてみたけれど。


「あ・・・っ」

 慣れないことはするものではないらしい。服を取り上げようとする祥子さ
まの腕から逃げて、身体を右に傾けた勢いで、そのまま床に転がってしまっ
た。その上、勢いをつけた腕が行き場をなくした祥子さまの方も、バランス
を崩してよろめく。


「・・・・・・っ」

 祥子さまのさらさらの黒髪が、祐巳の頬に落ちる。その感覚に顔を僅かに
上げると、祥子さまの驚いた表情が見えた。


(これって・・・・・・)

 まるでデジャヴみたいだ。

 一瞬だけ、二人が出会った瞬間の、あの時に戻った気がした。

「祥子さま・・・」

 とくんと心臓が跳ねる音が声になったみたいに、唇から愛しい人の名前が
零れ落ちる。


「祐巳」

 祥子さまも、熱っぽい声で祐巳の視線に応えてくれた。

 まぁ、何と言うか。

 これって絶対、二人っきりで過ごす時間の多い、新婚さんならではの特権
ではなかろうか。目と目があっただけで、こんなむせ返るような甘い空間に
早代わりしてしまえるのだから。

 両手を祐巳の顔のすぐ横の床につけて、祥子さまはじっとこちらをみつめ
ている。ふわふわとのぼせてしまいそうな距離に耐えられなくて目を瞑ると、
程なくして、祐巳の唇をいつもの温もりが包んだ。


 呻いてしまいそうな吐息ごと、祥子さまは愛しそうに啄ばむから。唇は弧
を描いて、競りあがった吐息は笑い声になる。


 少しだけ濃厚な感じのするキスの後に、祥子さまはぎゅっと祐巳を抱きし
めて、掠れてしまいそうな声で言った。


「絶対に、あなたを大切にするわ」

 一言一言かみ締めるように、祥子さまが耳元で囁く。

「辛い涙なんて流す暇もないくらいに、いつもあなたに笑顔でいてもらえる
ように。私があなたを幸せにして見せるわ」


「お姉さま・・・」

 まるで、神様の前で行う誓いのように、真摯にそう告げてこちらをみつめ
る祥子さまに、間違いなく胸がきゅんと熱くなった。


「私も・・・私もいつまでも、祥子さまと笑いあっていたいです」

 涙が滲んでしまいそうに高鳴る幸せの中で、細い背中に腕を回してしがみ
つきながら、祐巳がたどたどしくそう応えると、祥子さまは抱きしめる腕に
更に力を込めてくれた。


 幸せで。ただ幸せで。

 祥子さまのその誓いが、どれくらいの決意の元で紡がれたのかなんて、思
いもよらなかったんだ。



                           


「いやぁ、何だか申し訳なかったな。新婦に残業させるなんて・・・」

「いいえ、そんな」

 気のよさそうな初老の紳士に、祐巳は穏やかな気持ちでそう応えた。

 残業と言っても、業務に差し支えるような大きなものではない。どちらか
というと、新人の祐巳が覚えなければいけない、書類だの、計算だのが処理
できていないための自主的な居残りなのである。もとより、定時に帰れるだ
なんて思って就職したわけでもなかった。


 病院での相談業務は、日中よりも仕事を終えて訪れる人の多い夕方の方が
忙しい。


 といっても、大学を出たばかりの祐巳がいきなり担当を持つわけではない。
今はもっぱら、過去の書類から業務プロセスを覚えたり、関係制度を覚えな
おしたりと、自分のための研修が業務の大半を占めていた。最近になってや
っと、先輩の業務に同行させてもらえるようになったのだ。


「それじゃあ、福沢さん。今日はその辺にしておこうか」

 主任ワーカーの彼はそう言って、深い笑い皺を浮かべた。その上。

「新婚生活を満喫できるのは今だけだからね。早く帰らないと」

「えっと・・・」

 悪戯っぽくウィンクしてみせる仕草に祐巳は顔が赤くなっていくのを止め
られなかった。


 卒業と同時に、とは行かなかったけれど。ここへ就職した頃には既に、祥
子さまとの結婚は秒読み段階になっていた。もちろん、法的な婚姻というわ
けではなかったけれど。将来を誓い合い、共に暮らすことが、お互いの生活
に及ぼす影響は少なくない。


 その辺りのけじめ、というか、一応の礼儀とでも言おうか。とにかく職場
の人には、祥子さまとの結婚を伝えようと、式の直前に祐巳は内心どぎまぎ
しながら、目の前の主任をはじめ、同僚達に公表したのだけれど。勤め始め
て数ヶ月が経過して、回りも祐巳自身を知っていたからか、お祝いの言葉意
外を浴びせられることはなかったのだ。どちらかというと、相手が女性だと
いうことよりも、あの小笠原祥子さまだということに驚かれた。


「それでは、失礼します」

 にこやかに片手を上げて応えてくれる主任に、深々と礼をして部屋を出る。
しかし、一時間程度とはいえ、残業している祐巳に付き合って、それより遅
く帰る主任は、いつ帰宅するのだろうか。自分にも家庭があるだろうに。人
事ながらその心身の健康が心配である。


(・・・って、人事じゃ駄目でしょ)

 ぼんやりと廊下を歩きながら、祐巳は慌てて自分の思考に突っ込んだ。
 そう。自分が早く一人前になれば、個々の負担は減るはずなのだ。他人事
なんて思うのは間違い。無意識とはいえ、祐巳はこっそり反省した。


「わぁ・・・」

 一日の反省もそこそこに、職員用エントランスの扉を開けると、初夏の風
が、髪をなぶって吹き抜ける。


(祥子さま、帰っているかな)

 家に着くのは七時前。多分、祐巳の方が早いだろう。

 まだ結婚する前に同棲していた時は、祐巳も就業直後で帰宅時刻が不規則
になったりしたけれど。その時期でさえ、祥子さまの方が早く帰宅すること
は稀だった。


(お店には寄らなくても大丈夫かな)

 それでも、少しでも早く帰りたい。
 もちろん、祥子さまがお帰りになる前にしておきたいことはたくさんある。
だけど、はやる気持ちの表れのように、足取りが軽く浮き足立つのは、その
ためだけではない。


 早く、二人にお家に帰りたい。

 今日も脳みそのとろけ具合は絶好調の祐巳は、祥子さまに見つかったら絶
対に眉をしかめられるくらいに、頬を緩ませて家路を急いだのだった。



                            


 電話の受信音がリビングに鳴り響いたのは、食卓にお皿を並べて、盛り付
ける段になってからだった。


『ごめんなさい、少し遅くなりそうなの』

 耳元に祥子さまの心底申し訳なさそうな声が届くと、祐巳の方こそ申し訳
ないような気持ちになった。


 もちろん、一緒に暮らし始めてからも、祥子さまは遅くなる時は必ず連絡
をくれていたけれど。結婚してからは、少し遅くなる時ですら、メールでは
なく電話で連絡を入れてくれるようになっていた。


(お姉さま、大丈夫かなぁ・・・)

 料理を皿に移し変えながら、ふっと零れるため息を抑えきれない。

 もちろん、早く帰ってきて欲しいのは山々なのだけれど、祥子さまを責め
る気持ちからではない。入社二年目とはいえ、ゆくゆくはグループ全体を牽
引していかなければならない祥子さまの勤務実態は多忙を極めている。その
上で、祐巳のことをこんなにも気に掛けてくれているのに、不満なんて言っ
ていたら罰が当たるというものだ。


 だから、心配なのは、激務に晒されている祥子さまの身体と、張り詰めて
いる精神状態だった。


(ゆっくり休んでもらわないと、うん)

 結論はそれだけなんだけど。具体的に祐巳ができることといえば、肩の力
を抜いて、ゆっくり食事を取ったり、入浴で気分転換を図ったりと、本当に
些細なことを心地よくできるよう、用意をするだけなのだった。それから―
――・・・。


「・・・・・・っ」

 そこまで考えたところで、ぽっと頬が熱くなった。だって、お風呂から出
た後の、愛情たっぷりの癒し・・・なんて。


(・・・って、駄目だよ。だって、祥子さま疲れてるし・・・!)

 部屋に一人なのをいい事に、頬を両手で押さえて無意味にその場でばたば
たとまごついてしまう。


(休んでもらうのが第一だもの、次の日に差し支えたりしたらいけないし・
・・でも、祥子さまがいいなら、別に支障は・・・)


 ぐるぐると色々な思考が頭の中をめぐって、何だか収拾がつかなくなって
しまった。だけど、結局は、祥子さまに心地よく過ごしてもらいたいなんて
ことしか浮かばない。


 帰ってこられたら、いっぱい優しくしてあげたい。祥子さまの思う分だけ、
甘えて欲しい。疲れた身体と心を抱きしめて、ゆっくり休んでもらえたら、
それだけで自分も幸せだろうから。


(甘えてくれる時の祥子さまってば、すっごく可愛いもん)

 めくるめくあらぬ想像に浮き足立ちながら、用意した食事を簡単に整理し
て、お風呂の用意やら、洗濯やらを済ませていると、あっという間に時間は
経っていった。



                            


「お姉さま、そんなにお気になさらないでください」

 目の前でしょんぼりとうな垂れる祥子さまに、祐巳はあわてて労いの言葉
をかけた。


 祥子さまが帰宅したのは、電話があってから三時間は過ぎた頃だった。

「・・・ええ、ありがとう・・・」

 急にできたご用事は関係者との会食だったらしい。ただ、間が悪かったと
いうか、祐巳の方も「もうそろそろ、簡単な軽食の方がいいかな」と考えて
用意した食事を本格的に片付け始めた時に、祥子さまがお帰りになられたの
だ。


 部屋の扉を開けて、ダイニングテーブルの上に視線を遣った瞬間、祥子さ
まは見ていてかわいそうになるくらいに悲壮な表情をした。


「保存できますし、また、明日にでも食べれば済むことですから」

 傷みやすそうなものや、火が通っていないものは、早くしないと残念なこ
とになってしまうけれど。加熱したり冷凍すればそれなりに日持ちするだろ
うし。お弁当のおかずや、祥子さまのお帰りが遅い時の自分の夕飯にすれば
済むことだった。


 だけど、祥子さまにとってはそんなに簡単な問題ではないらしい。

「?」

 これなら小腹が空いた時にでもつまんでもらえるかな、冷蔵庫に食事を片
付けながら、そんなことを考えて、冷やしておいたジュレを手にとって眺め
ていると、唐突に祥子さまに後ろから抱きしめられた。


「お姉さま?」

「・・・それ、一口もらってもいい?」

「あ、はい」

 会食と言っても、祥子さまいつもあまり食べては来ない。だからといって、
帰ってからも積極的に何かを口にしようともしないから、自分から「食べる」
と言ってくれるだけでもありがたい。


 祐巳は早速、祥子さまの席にお皿を置いて、スプーンを差し出した。だけ
ど、祥子さまはくっつき虫みたいに、祐巳の背中から離れようとしない。


「???」

 他に食べたいものでもあるのだろうか。そう考えて振り向くと、当然だけ
どすぐそばの祥子さまと目が合う。


「お姉さま?」

 息が掛かってしまいそうな至近距離に途端にどきどきし始めた祐巳とは対
照的に、祥子さまは目を合わせたままにっこりと笑った。


 それから。

 薄紅色の唇が小さく開く。お決まりの甘えた声と共に。

(こ、これは・・・っ)

 ―――必殺、食べさせて攻撃。

「え、えっと・・・じゃあ、お姉さま・・・・・・あーん」

 差し出していたスプーンをそのまま拝借して、一口分に掬ったジュレをお
ずおずと差し出すと、祥子さまは雛鳥みたいな仕草でそれを口に含んだ。


(うわあぁ・・・)

 可愛い。文句なしに可愛すぎる。

 一瞬で悩殺された祐巳は温かい腕の中でスプーンを持ったまま、祥子さま
の口の中で溶けていくジュレみたいに、ふにゃふにゃととろけてしまった。


「明日の朝、食べるから」

 だけど、祥子さまは腰が抜けてしまいそうな祐巳をぎゅっと抱きしめると、
思いのほか真剣な声でそう言った。


「お姉さま、そんなに無理なさらなくても・・・」

 朝、とはいっても。朝から食べるには少々重いメニューではなかろうか。
量もそれなりにある。何よりも、祥子さまは普段から、朝はほんの軽食と紅
茶しか召し上がらない。


「無理じゃないわ。これが食べたいの」

 駄々っ子みたいな声でそう言って、祥子さまは抱きしめた祐巳の首筋に顔
を埋めた。


 大丈夫なのかな。

 そんな言葉がふと頭に浮かんで。だけど、祐巳には微笑むしかできなくて。
ただ祥子さまのみどりの黒髪を撫でた。


 高等部の頃より少しだけ短くなった黒髪は。あの頃と変わりなく美しくて
さらさらで。懐かしい匂いがした。



                            


 いつもよりもずっと早起きをしたらしい祥子さまは、朝からストレッチな
んてして、シャワーを浴びて。それから朝食の席に着いた。


「おいしいわ」

 にこにこ笑いながら、祥子さまは宣言どおり、昨日の夕食を召し上がった。
全部はさすがに無理だったようだけれど、それでも普段と比べると驚異的な
摂取量である。どうやら早起きして身体を動かしていたのは、お腹を空かせ
るためだったようだ。確かに、起きてすぐより、しばらく身体を動かしてか
らの方が食事は喉を通りやすい。


(本当に大丈夫なのかなぁ・・・)

 食後の紅茶を淹れながら、そんな心配をして祥子さまを窺うけれど、今の
ところ気持ち悪そうにしていたり、ぐったりとした様子は見せていなかった。


 もちろん、祥子さまに喜んでもらえるのはうれしいけれど。何だか無理を
させてしまったのではないだろうかと、余計な心配をしてしまう。


「ねぇ、祐巳」

「はっ?ひゃい?」

 そんなことを考えていたから、祥子さまに弾んだ声で呼ばれて、思わずび
くりと肩を上下させてしまった。


「ど、どうしたの?」

「い、いえ・・・何でしょう?」

 どぎまぎする胸を押さえる祐巳の様子に祥子さまは一瞬だけ怪訝そうな顔
をしたけれど。何とか取り繕って続きを促すと、またにこやかな表情に戻っ
た。


「次のお休みは、二人でどこかへ出かけましょうか」

「えっ?」

 思ってもいなかった申し出に、今度はカップごと落としそうになった。

「良いんですか?」

 それでもって、聞き返してしまう。だって、週末でも祥子さまはお忙しそ
うで。もちろん二人の時間をきちんと取れるよう、できる限りの配慮はして
くださっているけれど。祐巳の方も、僅かに取れる休息時間くらいはゆっく
りしていただきたくて、稀に空いた時間は、のんびりとお家で過ごすのが定
番だったのだ。


「もちろん」

「うれしい!」

 落としそうになったカップを一旦テーブルに置くと、祐巳は飛び上がって
祥子さまに抱きついてしまった。


「そんなに、はしゃがないの」

「えへへー」

 そんなお小言を言われたって、うれしい気持ちはまったく減ったりなんて
しない。祥子さまもまんざらではない様子で祐巳を抱き返してくれた。

 二人してはしゃいだままでキスをすると、世界中の幸せを独り占めしてい
るみたいな気持ちになった。


 なんて幸せなんだろう。


                            


 次の週も、その次の週も、祥子さまのいうところのお出かけは実現されな
かった。


 先週は取引先とのミーティングが急遽入り、今週はシステムエラーとかな
んとかの修正で祥子さまは休日全てを奪われていた。


(うーん)

 祐巳は軽く伸びをしながら、冷えて汗を掻いたグラスのふちをたどる。生
クリームとアイスクリームが溶け合って、カフェオレの中に沈んでいく。待
ち合わせたカフェは正午の忙しさで程よく混み合い始めていた。


 残念な気持ちはもちろんあるけれど。それより何より気がかりなのは、祥
子さまの意気消沈振りだった。


 そういえば、今よりずっと幼かった頃、流れ続けた約束のせいで、二人が
すれ違ったこともあったっけ。それこそ、今思えばそんなに泣きくれること
もなかっただろうに、そう考えられるほどの冷静さはあるつもりなのだけれ
ど。


 祥子さまは、約束を反故にすることに、過剰なくらい怯えているみたいだ。


 予定が合わなくなったと祐巳に告げた日は、祥子さまは入浴後に自室にこ
もるようになっていた。


(さて、どうしたものか)

 すれ違い、なのだろうか。

 うまく頭の中で整理できていないけれど、祥子さまを責める気持ちは湧い
てこない。祥子さまがどれくらい祐巳のことを想ってくれているかなんて、
充分すぎるほどわかっている。反故にされた約束は、もちろん二人の楽しい
時間のはずだっただろうけれど。祥子さま自身の努力では、避けようのない
理由で破綻しているのだ。そのことで祥子さまに不信や不満を抱けるほど、
祐巳はもう子どもではない。


 それなのに、どうして祥子さまにあんな顔をさせちゃうんだろう。

『あなたにいつも笑顔でいてもらえるように。私があなたを幸せにして見せ
るわ』


 そう祐巳に告げてくれた祥子さまの方は、どんどんお顔が曇っていく。

 お互いを誰よりも大切に想っている。それを二人ともきちんとわかってい
るのに。


 どうしてこんなに息苦しくなるんだろう。

「お待たせしました・・・・・・でも、あまり退屈にはされていないみたい
ですね。お姉さま」


「へ!?」

 唐突に後部からかけられた声に、素直に驚いた祐巳は、素っ頓狂な声を上
げてしまった。


「・・・瞳子、足音全然聞こえなかったよ・・・?」

「私は普通に店内に入ってきましたけれど。お姉さまは私になんて気づかず
に、熱心に考え事をされていたようだから、わからなかっただけじゃありま
せん?」


 つんと澄ましてそう言うと、瞳子は祐巳の向かい側の席に腰を下ろした。

「久しぶりだね」

 結婚式以来だから、そう何ヶ月も会っていないわけではないのに。毎日の
ように顔を合わせていた高等部の頃と比べれば、不思議なくらいに感慨深い。
だから、その言葉は瞳子とこんな風に改めて待ち合わせをするたびに、つい
口をついて出てしまうのだった。


「久しぶりなんて。結婚式からしばらく顔を合わせていないだけで、そんな
言われ方をするなんて。まるで私が一切の連絡もよこさないみたいではあり
ませんこと」


 わざとらしくため息をついて見せる姿は、あの頃とまったく変わらない。

 可愛い可愛い、世界でたった一人の祐巳の妹。

「そういうわけじゃないけど・・・あ、そういえば普通の服だね」

「?それが何か」

「休憩時間に来るって聞いたから、てっきり舞台衣装のままなのかなって」

 これ以上お姫様のご機嫌を損ねるわけにもいかない。そう判断して、ウェ
イトレスさんが注文を取ってかえったのを機に、話題を変えてみることにす
る。


 本格的に演劇の勉強をしようと、瞳子が心に決めたのは、三年生の進路決
定の時だった。それまで、瞳子にとっての演劇は、居心地の良い心のよりど
ころに過ぎなかった。もちろん、葛藤はあっただろうけれど、それ以上に目
指すものが瞳子にはあったから。


 その肩の荷が下りた時、本当に自分のしたいことは何なのか。考えるより
も前に、それは自分の側にあったのだと、瞳子は言っていた。


 そして大学四回生となった今、彼女は小さな劇団に入団していた。もちろ
ん、彼女なりに悩みは尽きないだろうけれど。まるで両手をいっぱいに広げ
て、大空へと羽ばたいている鳥のように。今の瞳子は輝いて見えた。


 そんなことを考えながら目を細めていると、瞳子は先ほどの祐巳のずれた
質問にがっくりと肩を落とした。


「まさか。それに、稽古はさせてもらえますけれど、今は専ら裏方仕事に精
を出しているところですもの」


「瞳子が裏方ぁ?」

 あの、祥子さまに勝るとも劣らない、高飛車で、プライドの高い瞳子が。
黙々と裏方作業に徹している姿なんて想像できない。もちろん、本当は思慮
深くて、小さな仕事も誠実にこなす真面目さがあることはわかっているけれ
ど。どちらかと言うと、高らかな笑い声と共に、どこまでも自信に満ちた姿
で舞台を闊歩している方が、瞳子には似合っているような気がするわけで。


「もちろん、それだけに終始するつもりはありませんわ。だけど、それだっ
て、舞台を作っていく上で、それから女優として成長していくために必要な
仕事ですから」


 だけど、瞳子は負け惜しみでもなんでもなく、清々しい表情でそう言い切
った。ぴんと背筋を伸ばして座る姿が、いつも以上に潔かった。


「そんなことより、お姉さまは?」

「私?」

「てっきり惚気られて、げんなりさせられるかと思っていましたのに」

 鼻先で笑うような仕草をしてから、瞳子はそう言って眉を下げた。

「惚気なんて言ってもねぇ・・・祥子さまはお忙しいし・・・あ、でもすご
く大切にしてくれるよ」


「そうですの」

 もしかして心配してくれてるのかな、そんなことを思いながら慌ててそう
告げると、瞳子は呆れたような顔をした。「結局惚気ているじゃないですの」
そう付け加えながら。


「でも。祥子お姉さま、ご結婚後も変わらず・・・いえ、前以上に仕事に
没頭していると噂には聞きますけれど?」


 アイスティーをストローで口に運びながら、大きな目が心配そうにこちら
を見上げる。企業に携わることのない学生で、遠縁とはいえ、彼女もまた小
笠原家に関係深い人物であることに変わりない。祥子さまとは柏木さんを挟
んでの親戚だ。近況を耳に入れることは容易なことだろう。もしかしたら、
職場での祥子さまの動向については、祐巳よりも詳しいのかもしれない。


「うん・・・すごく疲れているみたい。だから、せめてお家ではゆっくりし
て欲しいんだけど・・・」


 余計気を使ってもらってたりする・・・なんてことまでは口には出せない
のだけれど。ごにょごにょと口ごもりながら、正面をみつめ返す。また、呆
れたような顔をされているはずだ、そう思いながら。だけど予想に反して、
瞳子は驚いたような顔をしていた。


「・・・それ、祥子お姉さまにも仰っているのですか?」

「?うん・・・?」

 常に口にしているわけじゃないけれど。お疲れの様子を隠すようにして、
祥子さまが気遣ってくださるような時には、ついつい宥めるような言い方を
してしまう。だけど、それも無理をして言っている訳じゃないのだ。重度の
祥子さま病患者の祐巳としては、そう口にせずにはいられないというだけで
あって。それなのに、瞳子は思いもよらない質問を投げかける。


「それで、祥子お姉さまは、お姉さまの仰るように寛いでいらっしゃるのか
しら」


「え・・・」

 今まで考えても見なかったことを、瞳子はこともなげに言った。

 大丈夫、気にしないで。そう告げた後、祥子さまはどんな表情をしていた
だろう。


『・・・ええ、ありがとう・・・』

 掠れたような声と共に、申し訳なさそうに微笑む表情が脳裏に浮かんで、
何だか息苦しくなる。


 ―――本当に寛いでいらっしゃるの?

「祥子お姉さまは別に、家事労働をしてもらうためだけに、お姉さまとご結
婚なされたわけではないと思いますが」


 思い当たることが多すぎて、しょんぼりと肩を落とし始めた祐巳に、瞳子
はおかしそうに笑ってから、幾分か声を柔らかくして続ける。


「既婚者でない私には、そのところの全てが詳しくわかる訳ではないですけ
れど。誰かを想う気持ちに思いを馳せる位のことはできましてよ」


 鈴の音のような声を聞きながら、何だか手持ち無沙汰になって、混ざり合
った生クリームとアイスクリームを、カップから一口救って口元へ運ぶと、
こんな時に限って唇の端にくっつく。


 瞳子はその様子を目を細めて眺めてから、祐巳の口元をハンカチでそっと
押さえる。瞳子の笑い方は、少し祥子さまに似ていた。


 軽く唇の端を白いハンカチで擦ってから、口元からそれが遠ざかっていく。
視線でそれを追っていると、耳に静かな囁き声が届いた。


「お姉さまが祥子お姉さまのことを何よりも大切に想っているように、祥子
お姉さまもまた同じだというだけの話です」


 それはまるで、結婚式の日に神父さまの前で述べた誓いの言葉のような響
きだった。



                            


「おやすみなさい、お姉さま」

 書斎の椅子に腰掛けた背中にそっと告げる。

「・・・おやすみ」

 しばらくの間のあと、祥子さまは一言そう返してくれたけれど、振り向い
てはくれなかった。


 今週こそは一緒に出かけられると思うから。朝の玄関でそう告げられたそ
の日のうちに、その言葉は立ち消えてしまった。


 つまり、祥子さまのスケジュールに一週間の出張なんてものが割り込んで
きたのは、今日になってということだ。トラブルがあればそれに対処する人
間が必ず必要になる。また、それは往々にしてこちらの予期していない時の
ことが多い。そして祥子さまはその役割を担うことが多い立場であるという
だけなのだ。


 お帰りになられた玄関で、出迎えた祐巳を見ると同時に、祥子さまは頭を
下げた。


『ごめんなさい』

 結婚してからそんなに長い時間がたったわけではないと思う。それなのに、
もう何度、祥子さまのその言葉を聞いたのだろう。


『お気になさらないでください』

 祐巳のその言葉を聞くたびに、祥子さまは尚更表情を曇らせた。

 多分、自分たちは今、すれ違っているのだ。間違いなく。

 お互いのことを想っている。その気持ちを二人ともきちんとわかっている。

 それなのに、相手のために何も出来なくて、気持ちはどんどん翳っていく。


「・・・・・・・・・はぁ」

 右隣の空白に耐えられなくて、祐巳はベッドの上で何度も寝返りを打った。

 きっと、祥子さまは日にちが変わってしまうぐらいまで、寝室へは入って
こない。まるで自分への罰のように。約束を反故にしてしまった日の祥子さ
まは、祐巳に触れようとしなかった。正確には、約束が立ち消えてしまった
この三週間、祥子さまは必要以上に祐巳に接しようとはしてくれなかったの
だった。


 眠れない。

 身体は疲れている。瞼は重くて堪らない。

 それでも、意識だけがはっきりと動いて、部屋の気配を窺っている。それ
もここ最近の日課のようだ。


 そうやって何度目の寝返りを打った時だろうか。秒針の音に耳を澄ませて
いると、静かな足音が近づいてきた。


(祥子さま・・・・・・)

 ベッドのすぐ脇にまで来て止まった気配は、なかなかそこから動こうとは
しない。


「?」

 不思議に思って振り返ろうとした祐巳の動きよりも一瞬先に、僅かにベッ
ドのきしむ音とシーツが沈む重みを感じて息を呑んだ。

 だけど、上掛けが捲られる感触は訪れなかった。

 その代わりに、首元まで被ったシーツごと強い力で祐巳を抱きしめる腕を
感じて、一瞬にして眠気が吹き飛んでしまった。


『絶対に、あなたを大切にするわ』

 今にも、耳元にそのささやきが聞こえそうなくらいに、祥子さまはぎゅっ
と祐巳を抱きしめる。


 このまま、眠ったふりをしておくべきなのだろうか。それとも、今目が覚
めたように振り返るべきなのか。どうしたらいいのかわからなくて、祐巳は
ただ、息を殺してじっと祥子さまの気配を窺う。


 きっと、時間にしたらほんの数分なのだろうけれど。硬い沈黙が途方もな
く永く感じられた。


「・・・っ・・・・・・」

 それを破ったのは、祥子さまのしゃくりあげるような呼吸だった。

(え・・・・・・?)

 最初は、眠りに落ちる瞬間の、速い呼吸かとも思った。もしかしたら、祐
巳を抱きしめているために圧迫された、乱れた寝息かとも思った。だけど。


「・・・・・・ごめんなさい」

 掠れた小さな声が、鼓膜を震わせる。

「許して、祐巳」

 強く強く、祐巳を抱きしめながら、祥子さまはそう続けた。裏返ってしま
いそうな声で。


 祥子さまは、泣いていたのだ。

『辛い涙なんて流す暇もないくらいに、いつもあなたに笑顔でいてもらえる
ように。私があなたを幸せにして見せるわ』


 そう告げてくれた時と、同じ強さで祐巳を抱きしめながら。祥子さまは嗚
咽を押し殺すように、息を吐き出した。


 あの時、確かに自分たちは幸せだった。今も、その気持ちに揺るぎはない
はずなのに。どうして息苦しくて、涙が零れて。苦しくなっちゃうんだろう。


 こんなの変だ。

「・・・・・・お姉さまっ・・・」

「!?」

 思わず弾かれたように振り返ってしまうと、祐巳が寝ていると思っていた
らしい祥子さまは、目を見開いて固まってしまった。

 瞬く間にぎこちない沈黙が二人の周囲を包む。

「あの・・・大丈夫ですから・・・」

 みつめあったままの視線を外すこともできなくて。だけど何を言ったら良
いのかもわからなくて。唇だけが僅かに開いてそう告げた。


「大丈夫」

 一体何が。そう重ねて問われたら、うまく説明なんてできないけれど。他
に言いようもなくて。同じ言葉を繰り返し呟いて、祥子さまを招き入れるよ
うに上掛けを持ち上げた。


 ―――私は大丈夫だから。

 そう言いたかったのかもしれない。

 ―――そんなに泣かなくても大丈夫だから。

 ただ慰めたかっただけなのかもしれない。

 それとも。かき乱されるような感覚の中、祥子さまの泣き顔をこれ以上見
てはいられなかっただけなのだろうか。


 潤んだ瞳にぼんやりと祐巳を映したまま、祥子さまは促されるままそっと
シーツの間に入り込んだ。


 久しぶりの、シーツの中を二人分の体温が満たす感覚に、思っていた以上
の感動が押し寄せる。


「・・・お姉さま・・・」

 掠れてしまった声で呼ぶと、祥子さまはすり寄せていた身体を持ち上げて、
いつかのように両手を祐巳の顔の横についた。


 祥子さまの長い髪が、祐巳の頬にさらさらと滑り落ちる。だけど、祐巳を
見下ろす祥子さまの瞳は、出会った瞬間のあの時よりもずっと幼かった。

 引き寄せるように頭を掻き抱くと、僅かに開いた祐巳の唇に祥子さまの冷
たい唇が押し付けられる。しっとりとした感触は、いつもよりずっと長い時
間をかけて、祐巳の唇に押し当てられていたけれど。それは決して、官能を
揺さぶるようなキスじゃない。


 縋るものを求めて、しがみついているような。息を吹き返すための、人工
呼吸のような。追い詰められたキスだった。


 手のひらが布地越しに肌の上を滑り、指先がもどかしそうに寝間着の釦を
外す。はだけた胸元に、祥子さまがおずおずと頬を寄せてくると、涙が滲み
そうなくらい愛しさがこみ上げてきて、ただ目を閉じた。


 祐巳を抱きしめる腕が、痛いくらいに食い込むから。あやすように細い背
中を撫でる。


 夢中で抱き合いながら、ふと二人で誓った言葉を思い出す。

 ―――喜びも悲しみも分かち合い。

 ―――富める時も、貧しい時も。

 ―――健やかなる時も、病める時も。

 ―――共に在ることを誓いますか。

 祥子さまの浅い呼吸と、自分の乱れた吐息の合間に、その言葉は繰り返し
響き渡る。


 そのせいだろうか。

 温もりに包まれて何度も昇り詰めながら、自分の身体と同じように、祥子
さまの張り詰めた心も暖められていたらいいのにと、いつも以上に心の底か
ら願った。



                           


「高等部の頃の、梅雨の時のことを覚えていますか?」

 祥子さまの裸の肩に、額をすり寄せながら問いかけた。

「・・・・・・ええ」

 手の先で祐巳の胸に円を描いていた祥子さまは、一瞬の間をおいてからそ
う応えてくれたけれど。強張った声と同じように、指先まで固まってしまっ
た。


「あの、違いますよ。それを蒸し返したいわけじゃないんです」

 祥子さまの反応に、祐巳は慌ててその指先を取って口付ける。そう、別に
今の状況と照らし合わせて祥子さまを責めようなんてわけじゃないのに。唇
を押し当てた指先はすぐにその強張りを解してはくれなかった。


「ん・・・」

 ちっちゃな子を宥めるような気分で、指先を軽く口に含む。

「じゃあ、どうして」

 しばらくの間細い指を舌先で撫でていると、祥子さまは幾分か気持ちが緩
んだのか、拗ねたような声でそう言って、口元からそっと指を引き抜いた。
そのまま、祐巳の胸に唇を寄せる。

 赤ん坊みたいな仕草に思わず笑みが零れて、その笑い顔のまま祐巳は祥子
さまの頭を胸に抱きしめて囁く。


「あの時は、もちろん祥子さまも大変で、私も自分なりに色々悩んで泣いた
こともありましたけど。今になって考えると、あの時があったから、今の私
たちがあるんじゃないかなって」


「・・・・・・」

 そこを口に含んでいるからか、もしくはじっと聞き入っているのか。抱き
しめた祥子さまは、祐巳の言葉に声を出して応えてはくれなかったけれど。


「だから、あの梅雨の時期も、私にとっては大切な思い出です」

 祥子さまに届くように、祐巳は力を込めてそう言いきった。

『私があなたを幸せにして見せるわ』

 最近の祥子さまは、その誓いを頑なに守ろうとして、傷ついているように
見える。


 いつも笑顔でいられたらいいのにって、願う時もあるけれど。

 本当は、その言葉をもらえただけで充分、祐巳は幸せ者なんだよって、祥
子さまにも伝わってほしい。


「そう考えると。今は祥子さまがお忙しくて、私も少し寂しく感じることも
ありますけど。きっと、この先、今のことを二人で思い出した時には、笑い
ながらお話できるんじゃないかなぁって思うんです」


 何だか要領を得ないけれど、要はずっと一緒にいれば、楽しい日も辛い日
も二人には訪れるのだ。神父さまもそんなことを言っていた気がするし。そ
の両方を、二人の幸せな思い出にできたらいい。


「そうね・・・・・・」

 ずっと黙って祐巳の話を聞いてくれていた祥子さまは、祐巳が言葉を切っ
たのを合図に、胸元から一旦唇を離して、短くそう応えた。


「・・・・・・?」

 否定でもなく、かといって肯定でもない、相槌のような祥子さまの声に、
首を傾げてしまったけれど。祥子さまはそれ以上は何も言わない。胸の間に
顔を埋めて、ただ祐巳をぎゅっと抱きしめる。


『絶対に、あなたを大切にするわ』

 それは、あの時と同じ強さの抱擁だった。


                            


「いってらっしゃい、お姉さま」

 ボストンバッグを脇に置いた祥子さまと、いつもより長めのキスを交わし
た後にそう告げる。


 国内とはいえ、一週間も離れ離れになるのは結婚してから初めてのことだ
った。


「ねぇ、祐巳」

 玄関の扉を引きながら、前を向いたまま祥子さまが祐巳を呼んだ。

「はい?」

 キスの余韻でぼんやりとしていたから、多少間の抜けた感じの返事だった
かもしれない。ミュールを突っかけて玄関へ降りると、祥子さまはゆっくり
とこちらへ振り返った。


「?」

 小さく首を傾げてしまったのは、祥子さまの表情が思いのほか強張ってい
たからだ。昨夜眠りに落ちる前にみつめた表情は、穏やかなものだったのに。
長い出張に緊張しているのだろうか。そう一瞬考えたけれど、祥子さまは仕
事の関係で疲れた表情は見せても、不安な顔をしたことはなかった。


 もしかしたら、昨夜、祐巳が話したことと何か関係があるのだろうか。そ
う思いついたのと同時に、祥子さまは口を開いた。


「私も、今よりずっと先に、あなたと過ごした日々を笑顔で思い返せると思
うわ。でも」


 ドアノブを握っていない方の手で、祐巳の頬をそっと撫でて、祥子さまは
一瞬だけ、顔をくしゃくしゃに顰めた。


「今この瞬間、あなたに笑ってもらいたい時には、どうしたらいいの」

 迷いあぐねた子どもみたいな声で、祥子さまはそれだけ言うと、「いって
きます」と告げて静かに背中を向けた。


「・・・・・・お姉さま・・・」

 祐巳の声に、閉じられていく扉が被る。

 その向こうで、スーツを纏った背中が小さくなっていく。

 一週間も離れるのは、結婚してからは初めての事で。だから、できるなら
祥子さまに笑顔の自分を覚えてもらいたいって思っていた。もちろん、祐巳
もしっかりと、祥子さまの美しい微笑を目に焼き付けておこうって心に決め
ていたのに。


 どうして、祥子さま。

 これから一週間、祐巳が思い出すのはきっと、向けられた背中と、切ない
声だけだ。



                           


 すっかりと日が落ちた街を窓越しに眺めながら、祐巳はふーっとため息を
ついた。


「お疲れの様子だね」

 週に一度の介護相談室を終えたらしい主任が、所定時間をゆうに二時間は
越えているとは思えない程の穏やかな笑顔を浮かべながら、部屋の中へと入
ってくる。


「いえ、そんな・・・」

 祐巳の方はいつものごとく居残り勉強をしているだけである。山積みの検
討ケースの合間を縫って、各種相談窓口となっている主任の方こそ、お疲れ
のはずなのだけれども。


「いやいや。君が残っているのは、ここへ入ってからほぼ毎日のことだ。そ
の上、ここ一週間は、長時間の居残りだしね。疲れないはずがないだろう」


「・・・・・・」

 なるほど。対人業務に携わっているだけあって、他者のこともこと細かく
観察しているようだ。確かに、ここ一週間、祐巳は普段ならお家へ帰ってい
るはずの時間にも、残ってケース検討だの、事例研究だのに勤しんでいる。

 それらに没頭するのは、祥子さまがお帰りになられないから、という理由
だけではないけれど。

 帰宅時間をさして気にしないのは、多分にそのことが関係あるのだろう。
自分では意識していなかったけれど。


 祥子さまは明日、お帰りになる。

 たとえ、人間皆に平等に与えられた時間でも、過ごし方によって、その流
れは違うと思う。


 祐巳にとってそれは、長くて、それから不安な一週間だった。

 会えなくて寂しい。それだけじゃなくて。

『どうしたらいいの』

 その答えを、祐巳はまだ見つけていなかった。

「事例研究をしているの?」

 滅入っていくような気持ちで俯いていると、静かに隣へ立った主任がそん
なことを言った。


「あ、はい」

 主任の柔らかな物腰は、業務上だけではなく、祐巳ら職員に対しても同じ
だった。おっとりとそう尋ねられて、祐巳は先程まで見ていた資料と自分な
りに考えた移行プロセスを主任に差し出す。もちろん、取り留めなくしてい
た作業なので、それぞれのケースに中途半端に書き足しただけのものだけれど。


「ふむ・・・悩んでいるのかな」

「え?」

 書き連ねた、およそ検討書とは言いづらい文字を目で追いながら、主任は
そんなことを言った。


「いや、結構。それがないと人は成長しない。ワーカーとしての厚みも、そ
れらの上に重ねられていくのだからね」


 言葉を捜して黙り込む祐巳に微笑みかけてから、主任は机の上にそれらの
書類を丁寧に並べて見せる。


「これらのケースは、相談者の家庭内に問題が多くみえる。だから実際には、
相談者自身だけではなく、その夫などの家族全体をフォローアップする必要
がある」


 メモ用に切り集めて束ねられた紙を一枚抜き出して、簡単な相関図を次々
に書いていく。軽快な仕草なのに、出来上がったそれらは、祐巳が何時間も
かけて書き上げるものより数段わかりやすいものだった。


「だけど福沢さんは今、これらケースの相談者だけの目線で、支援プランを
考えている。違う?」


 すぐに返答ができない。頷くことすらも。
 だけど、それが先程の「悩んでいる」という言葉を継いでのものだという
事だけは理解できて、尚更祐巳は言葉を詰まらせるしかできなかった。

 知らず知らずのうちに、今の自分の状況に影響されて、演習とはいえ、冷
静にそれらを検討することができていないのかもしれない。


「じゃあ、視点を変えよう。問題を抱える夫婦や家庭において、問題の原因、
もしくは張本人は、一人だけだと思うかい?」


「いいえ」

 例えば、アルコールに頼りすぎてしまう人も。育児や介護が元ですれ違っ
てしまう夫婦も。第三者の目に明るみになる時点よりもずっと前に、不安定
な情緒の交錯があったはずだ。それら全てを否定して、誰か一人だけに非を
押し付けても、何一つとして問題は解決されない。


「そうだね。ここへ相談に来た時点で明るみになった問題というのは、歯車
が少しずつずれてしまった日常の延長だ。つまり、どちらにも改善できる点
があるということ。それなのに、福沢さんの作成したプランでは、どちらか
一方への面談以外は具体的な支援がない。それは、一人の人間にだけ現状に
耐えろといっているのと同じことではないかな」


 これは、仕事の話だと思う。今後、祐巳が現場実践を重ねていく上で、と
ても重要なことを教えてくれているのだろう。主任の話は、いつもわかりや
すく、そして心に響く言葉が多い。


 だけど、今、こんなにも胸の中にその声が響いてくるのは。

『お姉さまが祥子お姉さまのことを何よりも大切に想っているように、祥子
お姉さまもまた同じだというだけの話です』


『・・・ええ、ありがとう・・・』

 瞳子の言葉や祥子さまの表情を思い出させるのは、心が不安定だからなの
だろうか。


 それとも。

 ―――喜びも悲しみも分かち合い。

 ―――富める時も、貧しい時も。

 ―――健やかなる時も、病める時も。

 ―――共に在ることを誓いますか。

 神父さまの前での誓いを思い起こさせるような言葉だからだろうか。

「どちらか一方にだけ非があって問題が発生するわけではないよ。だからこ
そ、時に我々のような緩衝材が必要となる」


 自分と祐巳がそれぞれ書き込んだせいで、文字がびっしりと書き込まれて
何だか黒くなってしまった用紙を、主任は手際よくまとめると、端を揃える
ために二、三度机の上で跳ねさせてから、机の隅に丁寧に置く。表情は相変
わらず穏やかなままだ。重ねられていく言葉も、噛んで含ませるように柔ら
かく、祐巳の鼓膜を優しく震わせる。


「緩衝材はね、何かを正したり、矯正するような役回りじゃない。だからこ
そ公平な目で状況を的確に判断できないといけない・・・できるなら、普段
からその目を養いたいね」


 最後におどけたような声でそう言って、片目を瞑ってみせる愛嬌のある仕
草は、到底五十台には見えないのだけれど。


『悩んでいるのかな』

 きっと、お仕事の話だけじゃないんだろうな。その優しい言葉は。

「・・・・・・はい」

 どうしたらいいのかなんて、まだわからない。

 それでも、祐巳は目の前の紳士に、感謝の気持ちを込めて、神妙に頷いて
見せた。


『どうしたらいいの』

 答えが見つかったわけじゃない。

 だけど、主任の言葉に、瞳子の言葉に、それから祥子さまの表情に。確か
に大切なものが隠されている、それはわかったから。



                           


 空港まで迎えにいくと言う提案は、祥子さまが部屋にお帰りになられる直
前に連絡をくれたものだから、すぐに却下されてしまった。


 秒針の音が、静かな部屋では、嫌に大きく響いて聞こえる。

 早く会いたい。

 かなり意気込んで作ってしまった夕食を前にして、ダイニングチェアに腰
をかけながら、いつものようにそう願う。


 だけど、それと同じように、胸に重く沈んだ気持ちがあることに、祐巳は
きちんと気付いていた。


『どうしたらいいの』

 答えはまだ、みつからない。言葉にならないといってもいい。

 祥子さまの側にいられるだけで、充分過ぎる位に幸せ。だけど、嘘偽りの
ないこの気持ちを何度伝えても、きっと祥子さまの不安は晴れたりはしない
のだ。


 だけど。

『私があなたを幸せにしてみせるわ』

 じゃあ、幸せになるって、どういうことなのだろう。

 祐巳だけが、いつも楽しく笑っていられればそれでいいのだろうか。逆に、
祥子さまだけが、心穏やかに過ごしていられれば、それは幸せだということ
なんだろうか。


 いつも笑顔でいられれば、二人は幸せだということだろうか。

(でも、泣いちゃう時だって、悲しい事だって、たくさんあるはずで)

 それは不幸せなだけのことなのだろうか。

 心の中から何かが抜けていってしまうようなため息が、情けない音と共に
口元から漏れる。


 どちらか一方だけが、我慢すればよいのかといえばそんなこともない。

 だからといって、いつだって笑顔でいることは難しい。

 だけど、それは辛いだけのことじゃない筈だ。

『お姉さまが祥子お姉さまのことを何よりも大切に想っているように、祥子
お姉さまもまた同じだというだけの話です』


 飲み下せないままの瞳子の声が、喉元に引っかかって取れない。

 祥子さまも、祐巳を大切に想ってくれている。

 それは、痛いくらいにもうわかっている。それなのに、瞳子の言葉が警鐘
のように鳴り響いて、何かを伝えようとしていた。


 祥子さまも、祐巳を大切に想ってくれている。そのことと。祥子さまが祐
巳と同じ気持ちだということは、同じ言葉のようなのに、祐巳の中で重なら
ずにもがいている。


 ―――喜びも悲しみも分かち合い。

 結婚式の日に神父さまの前で、祥子さまに誓った言葉は嘘なんかじゃない
のに。


 こんがらがっていく一方の思考回路に、そのまま突っ伏そうとしたところ
で、インターフォンからエントランスが開けられたことを知らせる機会音が
短く聞こえた。


(祥子さまだ・・・)

 突っ伏しかけた腕に力を入れて、弾けるように身体を持ち上げる。

 その瞬間に、また、神父さまの言葉が蘇る。

 ―――喜びも悲しみも分かち合い。

 ―――富める時も、貧しい時も。

 ―――健やかなる時も、病める時も。

 それは、どんな時でも、その人と寄り添って歩くという誓いの言葉。

 祥子さまは、もうエレベーターに乗り込んだだろうか。

 椅子から立ち上がり、その人へと向かっていくように、玄関へと続く廊下
を歩いていく。


 一歩一歩、踏み出すごとに、確実に祥子さまに近づいていく。

『どうしたらいいの』

 祥子さまが問いかける。不安な瞳で、縋るように言葉を吐き出す表情が、
切なくて愛しい。


 玄関ホールの電気を点けると、暗くなっていた視界が一気に眩く広がる。

 ―――喜びも悲しみも分かち合い。

 ―――富める時も、貧しい時も。

 ―――健やかなる時も、病める時も。

 ―――共に在ることを誓いますか。

 ガチャ―――・・・。

「・・・・・・っ」

 玄関に下りた祐巳が手を掛ける直前に、向こう側からドアノブは回された。

―――共に在ることを誓いますか。

 その言葉の向こう側に、祥子さまが立っている。

「ただいま・・・・・・祐巳?」

 扉を開けてすぐに祐巳が立っているなんて思っていなかったのだろう、祥
子さまは素直に驚いた様子で、目を丸くしていた。


 だけど。

「・・・・・・お姉さま・・・っ」

 力が抜けていくような感覚と、奮い立つような正反対の感覚の両方で、祐
巳は力いっぱい腕を伸ばして、祥子さまにしがみついた。


「どうしたの―――・・・」

 突然の抱擁にうろたえる祥子さまの声が、途中で止まる。



「・・・・・・笑顔じゃない祐巳はお嫌いですか?」

 唇を固く押し付けただけの、だけど長い長いキスの後、祥子さまの唇に吐
息を吹きかけるようにして、祐巳は声を絞り出した。


『どうしたらいいの』

 質問に質問で返すのは、悪い癖だとわかっている。

 だけど、祐巳が望むのは、笑顔のある時間だけじゃない。笑顔で楽しく過
ごせるなら、それに越したことはないけれど。それだけを望んで、祥子さま
と結婚したわけじゃない。


「そんなわけないでしょう、私は・・・あなたが泣いているのなら、涙が止
まるまで側にいるわ。怒っている時も、拗ねている時だって。あなたを嫌い
になることなんてできないわ」


 祐巳の言葉を聞いた途端、祥子さまは顔を強張らせて、祐巳の両肩を掴む
ようにして、向かい合った。


「涙も、微笑みも、あなたの全てを守りたいの。本当よ」

 揺れていた瞳の奥に、真摯な光が息づいている。肩を掴む、痛いくらいの
手の力が、祐巳の身体全てを、しっかりと包み込んでいく。


 その気持ちに応えたい。

 それだけじゃなくて。

「私もです。私も・・・お姉さまが暗闇に迷う時は、側で一緒に光を探した
い・・・万が一、お姉さまがご自分をお嫌いになることがあっても、私はお
姉さまの手を離したくない」


 ―――喜びも悲しみも分かち合い。

 ―――富める時も、貧しい時も。

 ―――健やかなる時も、病める時も。

 ―――共に在ることを誓いますか。

「笑い顔も、泣き顔も、全部をお姉さまと重ねていきたいんです」

 祥子さまにも応えて欲しい。その気持ちに応えてもらえる自分になりたい
と、祈りを込めて愛しい人をみつめ返した。


「・・・・・・ありがとう」

 祥子さまの小さな声は、少しだけ涙で濡れていた。


                            


 ダイニングチェアに腰掛けた祥子さまは、テーブルに広げられた夕食を見
て、うれしそうに目を細めてもう一度「ありがとう」と言ってくれた。それ
から。


「夕食後に、何かすることはないかしら」

 背もたれに身体ごと預けるように座る祥子さまを、後ろから柔らかく抱き
しめると、そんな声が聞こえてきた。


「えっと・・・」

 いつものように、「お気になさらないでください」なんて言葉が唇から零
れ落ちそうになるのを、すんでのところで押し留める。


「祐巳?」

 ぐっと黙り込んだ祐巳を不思議に思ったのか、祥子さまは見上げるように
してこちらをみつめてくる。


 どこか不安そうに揺らめいている瞳が愛しくて。祐巳は吸い寄せられるよ
うに、その額に何度もキスをした。


 寂しかった、会いたかった。大好き。その全部を唇に乗せて、祥子さまが
くすぐったそうに身を捩るまで。


 それから。

「・・・紅茶が飲みたいです」

「え・・・?」

 ちょっと甘えすぎかな、なんて思って覗き込むと、祥子さまは拍子抜けし
たような表情をしていた。「なんだ、そんなこと」そう言いたげなお顔。


「お姉さまの淹れてくださった、紅茶が飲みたい」

 それに勇気付けられたみたいに、祐巳はもう一度重ねてそう告げて、祥子
さまの鼻先をちょんと噛んで見せた。


 ―――帰ってこられたら、いっぱい優しくしてあげたい。祥子さまの思う
分だけ、甘えて欲しい。


 それから、祐巳もたくさん祥子さまを感じたい。

 そんな気持ちを込めて、鼻先を噛んだ唇で、薄紅色の唇にもキスをした。

 祐巳のお願いが(祐巳としては恐れ多いことこの上ないのだけれど)ささ
やかなものだったことに、祥子さまは少しだけ不満そうな表情をしていたけ
れど。甘えた声で祥子さまを呼びながら何度もキスを繰り返しているうちに、
拗ねた顔は、呆れたような笑い顔に変わっていた。


「わかったわ。まかせて頂戴」

 愛情だけを詰め込んだキスの後、顔を離してみつめあった祥子さまは。

 初夏の初々しい日差しの中、ひときわ輝いていたあの日と同じように、
祐巳だけが見られる、美しい微笑を浮かべていたのだった。




                              END



 Junebride様に投稿させていただいた新婚イチャラブ。以前使わせて頂いていたサーバー様に上げていたのですが
ホームページサービスを終了されたのでこちらに(こっそりと)アップしちゃったり。挿し絵はもずる様とりう様の麗し祥祐v
とりあえず祐巳ちゃん大好きな祥子さまが書きたかったんだろうなぁという以外のなにものでもない妄想。



                             TEXTTOP

inserted by FC2 system