BECAUSE EXTRA 2




 そっと、その白い美しい頬に触れてみる。


 眠ってしまうなんて、ほんと初めてで‥‥‥‥


    *    *    *    *    *    *


 今週は、水曜日から祥子さまは家業のお手伝いとかで お父様と一緒に関
西に出かけられていて、『土曜日
の朝には帰ってくるわ』とおっしゃって、
名残惜しそうに玄関先で何度も何度もくちづけを交わして行かれたのだけれ
ども
‥‥

 祐巳のほうも週末の土曜日に、お父さんのお得意先の創立記念パーティー
のお手伝いを、という事で借り出されたわけで。


 二人で暮らすようになって4日もお互いの顔を見ないなんて初めての事で、
少し心細いかな
‥‥、くらいに思っていたのに。

 はっきり言って初日の夜からダメダメで‥‥‥‥

 水曜日の夜中の祥子さまのからの携帯電話に飛びつく ように出て、うわず
った声で応答したものだから、泣いているのがバレバレで・・・。


 『‥‥祐巳‥‥。 大丈夫?。』

 「‥‥ぅっ‥‥‥‥‥‥

 ぎゅっと瞑った目尻からポロポロと涙が溢れてきて、なんでこんなに淋し
がりやさんになっちゃったんだろう、って自問自答するけれど、答えなんか
明らかで
‥‥

 「早く‥‥、ぅっ‥‥逢いたい‥‥です‥‥

  土曜日にお帰りになる、って解かっているのに、我儘な呟きを祥子さまは
優しく受け止めてくれて
‥‥

 『‥‥祐巳‥‥たとえ逢えなくても、いつも祐巳の事想ってるわ‥‥

 その落ち着いたトーンの、祐巳の大好きな低いお声でおっしゃるから、祥
子さまは祐巳みたいに淋しくてキュン
と胸を鳴らす事はないのかなぁ、なん
て勝手に思い込んでいたのだけれども
‥‥



 「祐巳! あなた‥‥私を殺す気なの?」

 「へっ?」

 土曜日

 朝からパーティー会場の裏方的な会場の設営のお手伝いを終わらせ、「お
昼おごるよ!」という責任
者さんのお誘いも断り、一目散で、もうお帰りに
なってるであろう祥子さまに会いたくて帰宅して玄関へ入った途端の祥子さ
まのそのセリフに、祐巳はただ間抜けな声しか出なかった。


 つかつかと少し怒ったような表情の祥子さまが祐巳のところへ近づいてく
るものだから


 「お、おかえりなさい‥‥

 と、あわててスニーカーを脱いで反対向きに揃えていると、まだ俯いたま
まの祐巳の肘のあたりを祥子さまが少
し乱暴に握り締め、祐巳を立ち上がら
せる。


 へっ?と思う間も無く、祥子さまはその左手を祐巳の腰に回し、ジーンズ
のベルトを掴み、右手は祐巳の顎を捉え、覆いかぶさるようにキスをしてき
た。


 「‥‥‥‥‥‥ねぇ‥‥‥‥

 突然の抱擁に慌てて言葉を紡ごうとするけれども、祥子さまはそれを許し
てくれなくて、少しだけ身を捩ると
ふと太腿の後ろに祥子さまの腕が回った
かと思うと、ふぁ、っと抱え上げられて、急な浮揚感に、祐巳はあわてて祥
子さまの胸ポケット当たりのシャツを握り締めていた手を、その両肩に回し
ていた。


 下からの噛み付くようなくちづけを受けながら、祐巳は左右に角度を変え
てキスしてくる祥子さまに答えるの
が精一杯で、とすん、とその背中に柔ら
かなスプリングを感じて、初めてベッドに押し倒されてしまったのだと気づ
く始末で
‥‥‥‥

 その軽い衝撃で離れてしまった唇から漏れる吐息は、祐巳のものではなく
祥子さまのもの
‥‥‥‥

 鼻先を祐巳の頬に押し付けて、祥子さまは深い深いため息を漏らされた。

 「‥‥祐巳を味わえなくて‥‥飢え死にしそうだわ‥‥‥‥

 普段なら決して言いそうにないセリフを、潤んだ瞳で見つめながら呟く祥
子さま
‥‥

 と、カチャリとベルト のバックルを外す音にあわてて祐巳が身じろぐ。

 「お、お姉さま‥‥!」

 次に、するりとベルトが抜かれる感覚。

 「だ、だめです‥‥、こんな明るい時間から‥‥

 「私はかまわないわ‥‥

 『‥‥うぅぅ‥‥私が恥ずかしいんです‥‥

 深い蒼い斜光カーテンが閉じられているけれども、夏の強烈な照り返しで、
部屋の中はまるで深海の底ような
色で包まれていて‥‥

 「あの‥‥ あ、汗をかいてるし‥‥

 「ん?‥‥どうせ汗はかくから‥‥

 「‥‥いや‥‥あのぉ‥‥

 覆いかぶさる祥子さまの両肩を軽く押し戻そうとするのだけれども、反対
にTシャツを捲られ、歯で器用にフロ
ントホックを外される訳で‥‥

 「毎晩‥‥あんな電話しといて‥‥。 責任は祐巳が取って欲しいものだわ‥‥

 うぅぅ‥‥、それを言われると反論のしようもなく‥‥

 ジジッ、っとジーンズのジッパーが下ろされる音 を耳の奥で聞きながら、
祐巳は祥子さまのくちづけをその全身で感じとっていった。



     *    *    *    *    *    *


 『‥‥祐巳‥‥祐巳‥‥

 祥子さまの深い吐息が祐巳の耳元に届く‥‥

 いつも愛し合った後は、たとえ祐巳の方が積極的に祥子さまを 愛した後で
も、その美しい白い指先で祐巳の額にかかる髪の毛をはらってくれたり、唇
をなぞったり、肩や腕を撫でさすったりして、愛おしくてたまらない、とい
った風に時間をかけて余韻を堪能させくれる
‥‥

 『疲れた‥‥?』とか『大丈夫‥‥?』とか祐巳を気遣って、祐巳がとろ
とろと眠りにつくまで決して先に眠
ろうとする事はなかった。

 それなのに、今日ときたら、昼間っからこんな風に愛を交し合う事も珍し
いのに、祥子さまは祐巳の頬を2,
3度撫でただけで、とろんとした祐巳の
表情を半ば瞼を落としながら微笑んで確認すると、そのままその瞼は開かれ
る事はなかった。


 「お疲れなのかな‥‥?」

  そっと、その白い美しい頬に触れてみる。

 眠ってしまうなんて、ほんと初めてで‥‥‥‥

 その大きく弧を描いている長い睫をじっと見つめる。
 頬に落ちる影が、最近少し痩せられたことを物語って いて‥‥
 祥子さまがこの暑さのせいか食欲がないのを心配して、祐巳が色々と食事
に工夫を凝らしたりして
はみてるけれども。
 疲れているのに昼間っからこんなこと‥‥だめだめ‥‥
 いやこれは別かしら‥‥なんて祐巳がひとりつっこみをしてみる。

 今日はこんな事がありましたよ‥‥

 関西の出張はどうでしたか‥‥

 おみやげ‥‥は?

 聞きたいこと、話したいことは沢山あるのに‥‥
 祐巳は横向きにこちらに顔を向けて眠っている祥子さま の頬にそっと指で
触れる。


 そのままその指をすっと、顎に滑らせた。

 そして、唇でキスする代わりに、その指を一度祐巳の唇に当てた後、祥子
さまの唇をそっとなぞった。


 誰にも内緒の至高のくちづけ‥‥

 そんな想いで人差し指を祥子さまの下唇に滑らせる‥‥
 私を簡単に『天国』へと連れてってくれる祥子さまのくちづけ‥‥
 もう一度その指を滑らせる‥‥

 でもこの唇は‥‥私が望むほど愛の言葉を紡いでくれなくて‥‥

 もちろん、祥子さまの祐巳への愛情にこれっぽっちの疑いがある訳ではな
いのだけれども
‥‥

 先程も、祐巳の耳から顎の線をたどって甘噛みを繰り返す祥子さまは、の
けぞった首に唇を這わせると、再び
その小さな下顎を親指で捉え、舌先を白
い歯に這わせて呟く。


 「‥‥祐巳‥‥ 私を見て‥‥

 その吐息を唇で受け止め、潤んだ瞳で飛んでしまいそうな意識の中で祥子
さまを見上げると、二人の睫が触れ
合う程近くに祐巳を見つめる祥子さまが
映るから
‥‥

 ただでさえ近すぎて焦点の定まらない視界が、溢れ出した涙で更にぼやけ
ていく。


  ‥‥好き‥‥好き‥‥‥‥好き‥‥

 たとえ千の言葉を紡いだとしても、ちっとも足りない‥‥

 こんなに祥子さまのことが好きなのに、遠慮がちに伸し掛かる重みが祐巳
の愛情と反比例してるみたいでもどかしくて
‥‥

 もっとむちゃくちゃにして欲しいなどと身勝手なお願いが口をついて出そ
うになる
‥‥

 「‥‥‥‥ねぇ‥‥さま‥‥‥‥はぁ‥‥‥‥‥‥

 祥子さまの髪の中に入れた指先が掻きむしるように痙攣する。

 『‥‥愛して‥‥ます‥‥

 その言葉が溢れ出る代わりに涙が次から次へと流れ出して‥‥どうやった
らこの想いを昇華できるのか、など
とぐるぐる回る思考の中で整理できない
‥‥


 祥子さまの眠りを妨げないように、そっと体を起こす。

 裸のまま膝をかかえ、その膝に額を押し付けるとひんやりとした空気が汗
ばんだ体を覆い、その火照りを奪い
‥‥冷ややかな現実世界へと引き戻す。
 先程までの甘いひとときは、まるで夢で‥‥現(うつつ)では無かったか
のような
‥‥そんな錯覚をおぼえる。
 毎日‥‥毎日、一日一日と‥‥私は大人になっていくような気がする‥‥

 祥子さまを想う切なさと甘い疼きとで‥‥

 「風邪をひくわ‥‥

 いつの間にか起きた祥子さまが祐巳の背中に声をかける。
 ええ?と振り返ろうとすると 「じっとしてて‥‥  と言葉で阻止される。

 そしてそのまま、丸めた祐巳の背中にそっとくちづけをしてきた。

 くすぐったいくらいに何度も何度もキスを浴びせてくる。
 腰のあたりから上がってきた唇が段々と背中を這い上がりうなじへと達す
ると、「もう少し
‥‥太ったほうがいいわ‥‥ と耳元で囁かれる。
 お姉さまこそ最近お痩せになって‥‥、って反論しようとしたら、すっと
祥子さまの左腕が
祐巳のお腹にまわってきた。

 「ぷくぷくのお腹はかわいい‥‥けど‥‥?」

 な、なんでそこで疑問形なんです?
 うふふ、と笑う祥子さまに抗議しようと後ろを振り向こうとするとぎゅっ
と抱きしめられた。うなじに祥子さまの鼻先が押し付けられる。

 熱い吐息がかかって祐巳の放出した熱がすっかり戻ってくるようだ。

 「‥‥祐巳‥‥‥‥淋しいの‥‥?」

 思いがけない祥子さまの問いかけに、捩ろうとした体が静止する。

 「‥‥私といて‥‥‥‥淋しい‥‥?」

 「な‥‥‥‥

 今度こそその体を反転させ、祥子さまと正面から向き合う。

 どうしてどうしてそんな事!!

 絶対絶対そんな ことありえないのに!!

 大きな瞳に涙を一杯に溢れさせ、睨み付けるように祥子さまを見つめるも
のだから
‥‥

 「ご、ごめんなさい‥‥

 と、祐巳の零れ落ちそうな涙を両の親指で、頬を包み込むように拭ってく
れた。


 「‥‥お、お姉さまが‥‥好きだから‥‥‥‥うっぅ‥‥どうしようもな
く好きだから
‥‥

 ひくひくとしゃくりあげるように涙がまた溢れてきて‥‥

 「‥‥‥‥だから‥‥だから!‥‥

 「祐巳‥‥祐巳!‥‥

 体が砕けそうなくらい強く抱きすくめられて、何度も何度もくちづけを浴
びせられる。


 「祐巳!‥‥祐巳!‥‥愛してる‥‥愛してる、愛してる‥‥愛してるわ
‥‥


 それは、今ここで一番聞きたかった言葉で‥‥、何をおいてでも聞きたか
った言葉で
‥‥。きっと二人には それが永遠なんだと、夢を現(うつつ)に
してくれるような魔法のセリフで
‥‥‥‥

 見上げた祥子さまのお顔がちょっぴり拗ねたように照れたように紅潮して
て‥‥
、やっぱり夢じゃないのね と祐巳はぎゅっとその涙を裸の祥子さまの
肩に押し付けたのだった
‥‥



 
<END>



 ハニー様から素敵ラブssをいただきましたぁ!!(感涙)祥子さまラブ!祐巳ちゃん可愛い!!
涙の後にはイチャラブ♪切なくて優しいお話、本当にありがとうございました。



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