confession
−罪?と罰?−



今日は高等部の施設の一部を使用して先生方の研修があるため平日だけど午後の授業は無
く、放課後(と言ってもお昼過ぎ)に薔薇の館に集まってはみたものの取り急ぎ重要な案
件も無くて、せっかく集まったのだからといつもの様にお茶会をしていた。


「ごきげんよう。お久しぶりね」

と言って現れたのは元紅薔薇の小笠原祥子さまで

「おっお姉さま??」

「『『ごきげんよう祥子さま。お久しぶりです。』』」

祐巳以外見事なユニゾンで未だに?を飛ばしている祐巳に代わり

「薔薇の館にようこそ祥子さま。でもどうなさったのですかこんな時間に」

「久しぶりね志摩子。あっお茶はいいわ。」

突然の来客にも慌てずにお茶の用意をしに行った1年生に声をかけて

「高等部の教員研修で大学舎の講堂も使われる事になったから午後からの講義が無くなっ
てしまったのよ。」


「そうだったんですか。それでご用は?」

興味津々といった様子で由乃さんが話し掛けている側で未だに祐巳は惚けていた。

「構内で聖さまに出会ったら今日は高等部も午後から休みだと聞いたから・・・・。」

と言いながら何故だか目が泳いでいる。由乃と志摩子はその様子と聖さまという台詞から
ピンとくるものがあった。


まぁ簡単に言えば紅薔薇さまこと福沢祐巳がまた1年生に告白されたということなのだが
歴代の薔薇さまの中で断トツ1位の親しみ易さで人気を誇っている祐巳さんはちょくちょ
く同級生やら下級生たちに愛の告白を受けているのだが、祐巳さんが上手く事を運ぶ所為
か他にバレる事がほとんど無い。しかし、付き合いの長い由乃や志摩子さんに蔦子さんそ
れと乃梨子ちゃんには、ほぼ必ずと言って良いほどバレている。新聞部の真美さんにもた
まにバレている事もあるがこちらは山百合会の方で対処しているし真美さんも基本的に祐
巳さんが嫌がる事はしない為リリアンかわら版に載ることは無い。なので、人一倍祐巳さ
んの動向に敏感な紅薔薇の蕾とその妹にも未だにバレていないのだ(まあ蕾のほうは、う
すうす感づいている感はあるけど)。


しかし数日前の放課後にいつもよりちょっと遅れてやって来た祐巳さんはかなり慌てた様
子だったので由乃たちは蕾たちに気付かれる前に部屋の外に引っ張り出して事情を聞いた。
どうやら今日も1年生に告白されていたらしいのだが、その時に不幸にもゴロンタと遊ん
でいた前白薔薇さまの佐藤聖さまに目撃されたらしいのだ、もちろん聖さまの事だからバ
ッチリ声も聞かれていた事だろう。(去り際にニヤリと笑って行ったらしいし)
そして、今ここに祥子さまがいるということは、
聖さまが祥子さまをからかうネタとして
その一件をバラした事に間違い無いだろう
。(それも絶対大げさに言って祥子さまを煽っ
たんだろうな。)などと由乃が真実に近いだろう想像をしていたら


「えっと、祐巳さんにご用ですか?」

と志摩子さんが要領を得ない祥子さまに助け舟を出していた。

「ええ。・・・・・今日はもう終わりなの?」

「そうですね。取り急ぎの用事もないのでお茶会をしていたところですので。」

「では、祐巳を連れて帰ってもいいかしら?」

『そうですねぇ』と言いながらさり気なく紅薔薇の蕾の方を見て、肯いたのを確認してから

「かまいませんよ。それに明日は祝日でお休みなので私たちも、もう解散しようかと思っ
ていましたので。」


「そう。ありがとう。祐巳、帰るわよ。」

いつの間にか覚醒していた祐巳だが、本人無視で話が淡々と進んでいるのが何となく面白
くなくて、孫にちょっかいをかけていたのだが、そんな事をしていたところにいきなり言
われたのであたふたと用意をしてから


「じゃあ、お先に失礼するね。ごきげんよう。」

といって先に部屋を出て行った祥子さまを追って行こうとしたところで、由乃さんと志摩
子さんに片方ずつ腕を捕まれて両方から同じ言葉を耳打ちされた


「頑張ってね。」

その意味を察して

「・・・・・・・・やっぱり?」


「そりゃあ、わざわざこの時間に来て無理やり連れて帰るんだから間違いなく、でしょ?」


「お姉さまがどういう風に仰っしゃったかが問題だけど・・・・。」

「聖さまの事だからねぇ、絶対面白がって言っただろうしね。」

二人の言葉にがっくりと肩をおとしつつ

「うん。頑張る。」

「結果報告よろしくね?」

「・・・・・あ〜〜うん。じゃあ改めて、ごきげんよう。みんな」

「『『ごきげんよう紅薔薇さま。』』」

ドタドタと階段を下りて薔薇の館を出たところで腕を捕まれた。驚いて振り返ったら祥子
さまが何と無く微弱に不機嫌オーラを放っていた。


「遅かったわね。何を話していたの?」

「いっいえ。ちょっと片付けるのに手間取っただけですよ。」

「ふーんそうなの?私は傾向と対策でも話し合っているのかと思ったけれど。」

うわぁ、いきなりきちゃったよ。さて、どう切り返えそうか。下手な事言って墓穴を掘る
のだけは回避しないと。取り敢えずここはボケとこう。


「数学の宿題は今日は出て無いですよ?」

「・・・・・・何言っているの?そんなことより貴女、私に言わなければいけない事があるので
はなくて?」


スベッた挙句本題に持って行かれそうになって、危うく道路工事を披露しそうになったが
祐巳とて少しは成長したのだ!


「そうですねぇ〜?強いて言えば、う〜ん。あっ最近お忙しそうだったので言わないでい
たんですが、孫ができました♪」


って言った瞬間に祥子さまの指に力がこもって捕まれていたままの腕が痛いかなり痛い。
しかも祐巳からすれば取って置きの切り札を、それすらも予定内という顔をされたらもう
どうしようも無い・・・・っていうか、もしかして聖さま、それまでしゃべったの〜?


しょっちゅう高等部に遊びに来ている聖さまは祐巳をからかう為にわざわざ薔薇の館にま
で来ることがある。たまたまその時は、妹の妹を紹介している時で、どこかで見ていたの
では?と疑いたくなるタイミングでやってきて散々祐巳をからかった挙句に紅薔薇三姉妹
の頬にキスを落として帰っていったのだ。


「そう、それは目出度いわね。でっ他には?」

蓉子さま直伝+αの絶対零度の微笑みをされては、最早どうにもならないなと、両手を挙
げて参りましたのポーズを取ってから


「お姉さま素直にお話しますからここではちょっと拙いので場所を変えませんか?ついで
に腕も放して頂けると・・・・・・。逃げませんし。」


流石にまだちらほらと生徒がいるところで修羅場は拙いので提案してみた。っていうかや
っぱり修羅場になるのだろうか・・・・・はぁ。祐巳の所為じゃ無いのに。


「そうね、では誰の邪魔も入らない私のマンションに行きましょうか?」

えっ、いやっ、そこは、ちょっと、静かな公園とか遊歩道を歩きながらとか、こう・・・・穏
便に話せそうなところが希望なんですけど・・・・・・・・・ダメそうですね。ハイ。


祥子さまの現在のご自宅は大学と小笠原家の調度中間くらいの位置にある。なんでも社会
人になる前に自活して色々経験してみなさいと家を放り出されたそうなのだ。


10帖くらいありそうなリビングのソファーに向かいあって紅茶をいただきながらいつ来て
もあまり物が無い部屋だなと観察していたら


「っで。何を話してくれるのかしら?」

と唐突に本題に触れられた。マンションまでの道すがら祐巳が何を話しても拗ねてほとん
ど会話らしい会話をしてもくれなくて、こっちが拗ねてしまいそうだったけどこれ以上ご
機嫌を損なわせるともっと大変な事になりそうだったので我慢していたのだが。


「はあ・・・・・お姉さま、聖さまから何か聞かれましたか?」

「別に大した事は言われてないわよ。」

「そうですか。・・・・・・じゃあ私は何もしゃべりませんよ?」

先に祥子さまから何を知っているのかを聞き出さないと。言わなくてもいいことで墓穴を
掘ることになったら目も当てられない。ここは頑張って向こうから言わせねば!頑張れ私


「さっきと言う事が違うんじゃない?」

「何を怒ってらっしゃるのかを言ってもらわないと謝るにしろ怒られるにしろ納得できな
いじゃないですか。」


「・・・・・・。」

「話せないのなら私は帰ります。」

そういって腰を上げようとしてテーブルに手を突いたら、その手を捕まれて

「コクハク・・・・・・・・・告白されてたって聞いた。」

声は震えて瞳からは涙が零れそうで、それが怒りからなのか悲しみからなのかちょっと分
からなくて、でもハッキリ伝えようという意思が汲み取れたその言葉を聞いて浮かしてい
た腰をまた元の位置に戻した。


「それだけですか?」

「後は、手を握っていたとか、頬に手をやったとか、抱きしめていたとか」

せ〜い〜さ〜ま〜ぁ〜〜なんてこと言うんですかぁ〜。

「あ〜その辺は誤解ですよ、手は握られて、頬は泣かれたのでハンカチで拭いてあげてた
んです、抱きしめてていうのは逆で断った時に最後にハグさせて下さいと言われたんです
。」


「そうだったの、また聖さまにからかわれたのね?」

幾分声の震えは納まってはきているけれど、まだ瞳は潤んでいた。『そっちに言っていい
?』とぼそっと言われたので肯いたら凄く嬉しそうな顔をして祐巳の隣に座り指を撫でた
り辿ったりして一通り遊んだ後、恋人繋ぎの様にしてぎゅっぎゅっと力を入れたり緩めた
りにぎにぎしていた。


「でも告白はされたのね?」

「えっ、はあ・・・・まあ・・・・・・でも毎回きちんと断ってますよ。祐巳にはお姉さまだけです
ので。」


「毎回?・・・・ちょっとお待ちなさい、今回が初めてじゃないの?」

お姉さま食いつくとこが違います。祐巳の告白はスルー?しかし仕舞った、そうか、聖さ
まは今回の事しか言ってないから・・・・・・、拙い非常に拙い自分で穴掘っちゃったよぉ〜。


「どういこと?・・・・・祐巳?」

うわぁ、さっきまでとは打って変わって周りの空気がピリピリしてるし、繋いだ手は痛い
し。


「うぇ?えっと、その、ですね。」

言葉を濁していたら、物凄く悲しそうな顔をして

「ねぇ祐巳?私たちって付き合っているのよね?」

何を今更・・・・・っていうか、そんな顔しないで欲しい。何とかせねば!

「もちろんですよ。」今年のバレンタインに頂いたプロミスリングはチェーンに通してロ
ザリオの様に首にかけている。祥子さまの手には同じリングが右手の薬指に納まっている。


「どうしたんっでっ・・・うぎゃあ」

ドサっとソファーに押し倒された

「この髪も目も口も腕も・・・・祐巳の全ては私のよね?」

髪からゆっくりと指で辿っていきながら切なそうに言われるから。

「そうですよ。祐巳を祐巳としている物は髪の毛一筋から言葉すらお姉さまの物です。

と言って祥子さまの肩に手をやり身体を起こしながらキスをした。滅多にしない祐巳から
のキスに気を良くしたのか、『もう一度』とおねだりをされたので『まだ不安ですか?』
と聞くと


「・・・・・少し。」

と、う〜んと少し考えて額にチュッとした後もう一度唇にキスをして抱きしめた。
暫くそのままでいたけどふいに耳元で

「告白って、止めさせるわけにはいかないのよね?」

んん?・・・・・ああ無理かも

「そうですねぇ、告白は相手の自由ですからねぇ。でも流石に側に誰かがいる時は来ない
ですけど、手紙まではどうしようもないですし、無視する訳にもいきませんから。」


「そうね。」

そう言って暫く何か考えているようだった。祐巳は顔を見て話がしたかったから体を離そ
うとしたらイヤイヤするようにますます力を込めて抱きしめられてしまった。


「ちょっ!お姉さま聞いてください。」

「このままでいいでしょう?」

そんな・・・・・・・・・子供じゃないんだから駄々こねなくても。はぁ・・・・まぁいいか

「お姉さま。もしまた祐巳が告白された時は知りたいですか?知りたくないですか?知り
たいなら、その都度ご報告しますけど・・・・・。」


「・・・・・・・。」

暫くの沈黙の後

「教えて頂戴。知らなくて気を揉むよりいいもの。」

「でも苦しくないですか?」

愛しい人を苦しめる様な事はしたくない。なら告白合戦?を止めさせれば良いけどそれも
出来そうにない。まあ卒業すれば終わるだろうけれど。・・・・・・・・・多分。


「それは・・・・そうだけれど。・・・・・・・・・そうだわ告白された日は祐巳が泊まりに来ればい
いのよ。」


「へっ?なっ!なんでそうなるんですか?」

さっき考え込んでいたのはこのこと?

「恋人が不安になっているのだから慰めるのは当たり前でしょう?」

『嫌なの?』ってそんな目で見つめないで下さい。これって絶対罰だよね。はぁ・・・・しょ
うがない惚れた弱みだよね。体力持つかな?頑張れ私。


「分かりました。」

そう伝えると、やっと満足したのか体を離して満面の笑みを浮かべてから祐巳の頬を一撫
でした。それを合図に祐巳が目を閉じたのを確認してから深い深い口付けをされたのだけ
ど、かなり長い時間口付けされ続けて漸く開放されて息が荒くなっている祐巳の耳元で

「今日はもちろん泊まるのよね?」

っと確認っていうか命令?

「・・・・・・えっと、取り敢えず1回家に帰らせて下さい。」

制服のままでお泊りなんて冗談じゃあない、着替えも無いし。

「分かったわ。じゃあ迎えにいくから。」

ね!ってウィンクし『また後で』とさっきのよりも尚長い口付けをされてしまい、ウィン
クと酸欠でクラクラしながらマンションを出た。


一緒にいられる時間が増えるのは嬉しいけれど・・・・・はあ、卒業まで先は長いよ。

ってこのこと由乃さん達にはとてもじゃないけど言えやしない。
取り敢えず聖さまには謹んで仕返しをしなければ、後で祥子さまと相談しよう。

でも取り急ぎは今夜をどう乗り切るかだよね。頑張れ!!福沢祐巳!


                                                             Fin



◇  ◇  ◇

後書きらしきもの

 どうでしょうミネタさま気に入って頂けたでしょうか?(汗)ギャクちっくっぽい、ま
たまたどうしようも無い駄文ですが、めげずにご進呈いたします。どぞ!(逃)あっ誤字
脱字は今回も見逃して下さい(汗)

 ちなみに文中のプロミスリングはミサンガと同等のものではなくて、まあ単純に永遠の
愛の約束を誓った指輪と解釈して頂ければと。(汗)

 もう一つ、これの副題は『罪?と罰?』になっていますけど最初は『頑張れ祐巳ちゃん
』が副題だったんですよ。(笑笑)では。(逃亡)


                                                           明輝津



 ギフト第二弾!明輝津さまありがとうございましたっ!祐巳ちゃんモテモテ・・・祥子さまが卒業するまではみんな我慢してたんですかね(笑)。卒業後もラブラブな二人に思わずミネタも妄想を・・・。
 明輝津さま、本当にありがとうございました。

                                     GIFTTOP

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