She so cute



「・・・・・・っ、あ」

 みちるが不意に首元に歯を立てたるものだから、思わず頭をのけぞらせた。

「痛かった?」

 はるかの反応に、みちるが慌てて顔を上げる。

「・・・ううん・・・痛くない・・・」

 びっくりしただけ。枕を背もたれにして、両手を後ろについていたのが、その拍子
に肘で身体を支えるような格好になってしまっただけで。


 まごつきそうになりながら、視線を上げると、みちるがじっとこちらを眺めていた。
目が合った彼女は、ほっとしたように微笑をこぼす。それからまた、彼女ははるかの
素肌に唇を振らせていく。歯を立てた箇所にも、優しく口付けてくれた。


 息が上がってしまいそうになりながら、見下ろすような形で彼女を眺める。

 解けて引っかかっていただけのタイをそっと抜き取って、肌蹴たシャツの胸元に指
先を差し入れる。そこを撫で下ろしながら、彼女は白いシャツを完全にシーツの上へ
落とした。


(・・・お、お見事な手さばきで・・・)

 みちるに全部してもらうのを眺めていただけのはるかは、心の中で何とかそれだけ
感想を漏らしてみる。


「・・・ぅぁ・・・」

 シャツで隠れていた胸元にも唇を落とされると、慣れない感触に声が漏れた。
 ちなみに。はるかはこんなに手際よくできない。みちるに手伝ってもらいながら何
とか彼女の服を取り払うのが常である。


 胸元から、鎖骨へ。それからまた首元に。唇や指先が優しく触れてくる。その感触
に吐息をこぼすはるかに、時折みちるが顔を上げて微笑みかける。はるかが眉をしか
めたり、唇を噤みかけると、彼女は指先で優しく頬を撫でてくれた。


(・・・・・・もしも、男だったら、この時点で・・・出ちゃう、かも・・・)

 知らんがな。下品ですか。そうですか。
 熱に浮かされたような、ぼんやりとした意識の中で、そんなことを考えてみる。も
ちろん考えるだけで口になんて絶対出さないけど。眉をしかめるどころか、つりあげ
て、怒ったみちるに、なんか痛いことされたら怖いし。


(でも・・・)

 こんな時でも、もしも、なんて例えでその単語が出てくることに、はるかは苦笑した。

 もしも、男だったら。

 別に、女の身体が嫌で仕方がないわけじゃない。男になりたくて仕方がないわけで
もない。自分に心地よいことを追求したら、今の自分が出来上がっていただけの話で。

 もちろん、男だったらよかったなぁなんて思ったことは、一度や二度じゃなくある。

『男とか女とか関係ない。速い奴が勝つんだ』

 モトクロスの試合の後だっただろうか。へんてこなお友達に囲まれたはるかはそう
言ったけれど。


 ボーダレスな世界でこそ、より鮮明に、はっきりと、その違いに愕然とすることだ
ってある。


(・・・そういえば)

 ふと思い出して、笑い声を零してしまった。

「どうしたの?」

 お腹のあたりに口付けていたみちるが、その声に反応して顔を上げる。

「ううん、くすぐったいなぁって」

「あら」

 そう、くすぐったい。

『女の子を脅す気ですか!』

 はるかを取り囲んだ奴らに向かって、みちるはそう言った。

 女の子。

 みちるの目に、はるかはそのように映っているのだ。女、でもなく、女性、でもな
く、それでもってレディでもない。どこか甘さを漂わせるような響きで、みちるはは
るかのことをそう言った。だから、くすぐったくなる。


「・・・はるか」

「ん?」

 指先をわき腹から滑らせて、ベルトを摘まんだみちるが、不意に呼びかけてくる。

「このベルト、指定のものじゃないわ」

「え?あ、そうだっけ・・・」

 無意味に大きな穴がいっぱい開いているベルトを緩めながら、みちるが詰め寄って
くる。


「それに何。この、じゃらじゃらしたものは」

 言いながら、それをはるかに見せるように指先でつまんで軽くゆする。

「・・・えっと、チェーン・・・。さ、財布につなげるんだよ」

「鞄に入れればいいでしょ。こんな身形でよく注意されないわね」

「だって、学校にはつけて行ってないし・・・」

「制服姿なら場所は関係ないでしょう。私服ですればいいことを、わざわざ制服の時
にすること自体が問題よ」


「う、うん・・・」

 だから、いい子で脱がされます。許してください。
 素直に答えるはるかの様子に満足したのか、みちるは笑い声を一つ零して、また視
線を落とした。


(・・・うわぁ・・・やっぱり、恥ずかしいんだけど・・・)

 最初っからループに通してなんていないベルトは、金具を外されてしまえばすぐに
身体から離れる。それがシーツの上へ落ちると、繋げていた金具が続けて音を立てた。


(・・・というか、この構図が・・・)

 みちるの指先が、探るようにズボンの布地に這わされる。右手でボタンに引っかか
っている部分を外しながら、左手の指先がファスナーを探り当てて摘み上げる。


(・・・ゆ、指見て興奮してるとか、・・・どんなだよ・・・)

 実際のところ、素肌をあらわにすることへの恥じらいはあるけれど、絶対に脱がな
いなんて確固たる意思があるわけではない。相手がみちるでも、自分をさらけ出すの
には、まだ少し躊躇する。その程度。だから、恥ずかしくてたまんないのは。


 こんな風に、みちるに甘やかしてもらって、全部してもらって、その状況に悶えそ
うになっちゃってることなわけで。


「・・・み、ちる・・・」

 脚が徐々に空気に晒されていく感覚に、裏返りそうな声でみちるを呼ぶ。そうする
と、彼女は屈みこんでいた身体を伸ばして、はるかの肩を抱いてくれた。


「・・・あのさ」

 はるかの肩を抱いたまま、もう片方の手で器用にズボンを下ろしていくみちるを手
伝って脚を動かすと、体育座りのような形になる。そのおかしな格好のまま、寄り添
うみちるに額をすり寄せながら言った。


「みちるも、服脱いでよ。・・・そっちの方が、気持ち良いし」

 ああ、だから。何でこんなねだるような言い方になるんだろう。甘えた声になるん
だろう。


「・・・でも、まだ明るいから・・・恥ずかしいわ」

「おい」

 それはこっちの台詞だろ。見上げて睨み付けてやると、みちるはおかしそうに笑った。

「ほら」

 彼女の服の裾を引っ張るようにして持ち上げると、みちるはくすくす笑いながらは
るかの腕を抱きしめた。抵抗されると尚更燃えてしまう性質なのか何なのか。押し留
められたのとは反対の腕で彼女のわき腹をくすぐってやった。はるかの腕を抱きとめ
ていた力が緩まる。それを逃さず両手で彼女の上着の裾をたくし上げると、滑らかな
裏地が彼女の身体を駆け上がっていく。


 みちるは笑顔のままで、はるかを手伝うように軽く腕を上げた。身体から抜けてい
く服に、彼女の柔らかな髪が引き上げられる。腕から完全に袖が抜けて、彼女が姿勢
を戻すと、髪が肩へと落ちて元に戻る。


 二、三度首を振って、頬にかかっていた髪を払うと、みちるはまた、はるかに向か
って微笑んだ。


「まだだよ」

 こちらへ伸びてきた指先を捕まえて。脇から持ち上げるようにして彼女を膝で立た
せる。首元に腕を回されると、いつまででもみつめあっちゃいそうだ。


「・・・・・・はるか」

 小さな声で促されて、はるかはスカートの金具に指を掛ける。そこが簡単に外れて
しまうと、微かな衣擦れの音をたててスカートがシーツへと落とされた。


「まだでしょう」

 キャミソールの上から撫で上げようとしたら、はるかの手のひらを捕まえて、今度
はみちるがそう言った。


 捕まえられた手のひらをわき腹の方へ持っていかれると、もう一度くすぐってやり
たくなったけれど、指先にキャミソールの裾が引っかかって思い出した。そこへ手の
ひらを滑り込ませて撫で上げると、布地が手首に持ち上げられて、彼女の素肌があら
わになっていく。ゆっくりと這いあがっていく腕に人差し指を滑らせてから、みちる
ははるかの頭を撫でた。


「・・・やっぱり、くすぐったい」

 はるかが彼女の首元までキャミソールを捲り上げると、みちるはこちらの胸元へ指
先を滑らせ始めた。


「みちるは?」

 はるかも同じように、その膨らみを手のひらで包み込む。肌着越しの感触はそれで
も柔らかくて気持ちが和らぐ。


 はるかの呼びかけに、みちるはまた、静かに微笑む。それからそっとはるかの頬に
口づけてくれた。


 頬に触れていた唇が、範囲を広げて、まるで雨のように降り注ぎ始めると、その優
しい感触に、胸の奥がやっぱりくすぐったくなった。


 男とか、女とか。

 本当に関係なくなっちゃいそうだ。

 みちるの指先が、唇が触れてくる。際限なく。自分を呼ぶ声が、何度も鼓膜を撫でる。

 そうされる自分の身体が。その瞬間が。堪らなく愛しくなる。

「・・・っ、ふ・・・」

 そのまま胸の中で治まりきらなくなった笑い声が勢いよく飛び出てきそうになった
ものだから、はるかは慌ててみちるを抱き寄せた。


「・・・・・・はるか・・・」

 抱き寄せて、くっついて、離れられなくなりそうな距離で、みちるがまた囁く。

 耳元で響く声を、心から美しいと思った。


                              


「・・・やだ」

「わがまま言わないで」

「嫌だ。かっこ悪いもん。こんなの」

「・・・・・・」

 どこから引っ張り出してきたのか、みちるははるかの目の前に指定のベルトを突き
付けていた。真っ黒くて、金具を通すためにあるだけの穴が開いた。実用本位のすす
けたようなベルト。嫌だ。おまけにはるか愛用のものは、クローゼットに仕舞われて
しまっている。いじめか?


「こんなのつける位なら、何にもつけないし」

「不格好でしょう、そんなの」

「じゃあ付けても、シャツで隠す」

「だらしがないじゃないの・・・」

 とりあえず、いくらみちるの言いつけでも、そんなことまで指図されたくない。と
にかく嫌なものは嫌だ。これは明らかにはるかの美意識に反するのだ。うん。既に規
則に反してるらしいけど。


「・・・・・・もう・・・」

 呆れたようにみちるがため息をつく。その様子をちらりと盗み見ると、こめかみを
指でさすっている。困ってます。何とかしろよ、こら。とでも言いたげな雰囲気満載で。


「ええっと・・・」

 背筋に怯えが走ったはるかは、とりあえずこの場を逃げきろうと必死で言葉を探す。
背中が冷たく汗ばんでしまいそうだ。


 うろたえながら、けれど何とかそれを表に出さないように。ピローケースの端っこ
を弄っていると、みちるがこちらを振り返った。


 少しだけ、拗ねたような顔で。

「これ以上、あなたのことを素敵だと思う子が増えたらどうするの」

 言った後、悪戯っぽく笑いかけられて、思わず顔が熱くなってしまった。



                            END



 休憩中じゃなくて調教ちゅ(殴)



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